ID 1965
登録日
2006年 11月 1日
タイトル
泣いて木を切る
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新聞名
読売新聞
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元URL.
http://www.yomiuri.co.jp/zoomup/zo_06110101.htm?from=os1
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元urltop:
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写真:
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「やっと、これだけの規模にしたのに……」。米沢圭佐子さん(69)がチェーンソーの刃をリンゴの木の幹に入れると、つえをついて見ていた夫の栄一さん(73)は、自分の体が切られたかのように顔をゆがめ
た。
今年7月中旬、活発化した梅雨前線による記録的大雨で長野県の千曲川が増水し、須坂市の河川敷果樹畑が水没した。一帯はリンゴやモモの産地。収穫期を迎えていたリンゴの早生(わせ)種「つがる」は全滅し、10月
下旬から収穫の「ふじ」も泥水が実に浸透して、生食には不適の烙印(らくいん)を押された。
目に見える被害以上に深刻なのが、生産者の精神的ダメージだ。水に隠れた自分の畑を目に米沢さんの心はふさぎ込んだ。「もうこれ以上、続けられない」
2年前にも台風の雨で水没したが、10月で影響は少なかった。それ以前となると1983年までさかのぼるが、やはり秋の台風で被害は軽かった。今年のように、7月という早い時期の被災は初めて。9月上旬までに収穫
が終わる「つがる」やモモの全滅は、思いもしないことだった。
結局、米沢さんは45アールの畑のうち30アール分のリンゴの木50本を切ることにした。「息子はサラリーマン。規模を縮小して続けても、あと2、3年もつかどうか」。20歳のときから半世紀以上、果樹栽培を担ってき
た肩が寂しげに揺れた。
須坂市農業委員の市村憲章さん(63)は「ふじの収穫が終わる11月以降、果樹栽培を縮小・断念する高齢者が増えるのでは」と懸念する。事実、雑草が茂る荒廃地と化した畑が目立つ。市は今夏、遊休農地の活用の
ため、農地の貸し借りを仲介する「農地バンク」制度を作った。
異常気象で局地的な集中豪雨が増え、各地で想定外の農作物被害が出ている。この国で土に生きることは年々、難しくなっていく。
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