ID 13024
登録日 2009年 9月 1日
タイトル
家の灯を守り続けて幾世紀
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新聞名
swissinfo
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元URL.
http://www.swissinfo.ch/jpn/front.html?siteSect=107&sid=10752658&cKey=1248437048000&ty=st
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写真:
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ベツレヘムの家 ( 家の裏側の壁 ) の状態は今も良好だ (Staatsarchiv Schwyz)
1287年夏、中央スイスのシュヴィーツ州 ( Schwyz ) で裕福な一家が2階建ての木造家屋を建設していた。同年は、同州の代表者がスイス建国の礎となる連邦憲章に署名をした4年前にあたる。
木材はすでに近くの森から切り出され、一家は熟練した大工が自分たちのドリーム・ホームを組み立てるのを手伝っている。
最古の木造建築
家を建てていた一家の名前は判明していないが、当時彼らは近代的な小要塞の様式と実用的な間取りを取り入れた居心地のいい新居に満足し、家が長持ちして次世代に受け継がれることを希望していたに違いない。
そして驚くべきことに700年以上も経た2009年の現在、その家はまだ存在している。ヨーロッパに残存する最古の木造建築で、現在博物館として使われている。
運命の巡りあわせか「ベツレヘムの家 ( The House of Bethlehem ) 」は、歳月による荒廃、17世紀に村のほとんどを破壊した火事、そしてより古く、目と鼻の先にあった「ニーダーロスト・ハウス ( Niderost
House、1176年建築 ) 」を2001年の解体と保管に追い込んだ論争から生き残った。
平和と繁栄
シュヴィーツは平和と伝統が何百年も繁栄の花を咲かせた地方共同体だ。ベツレヘムの家は同地にある12軒の古い木造家屋のうちの1軒で、ヨーロッパに現存する最古の木造家屋ということになっている。そしてそれ
らの木造家屋のほとんどにはまだ居住者がいる。
「外からはただの農家のように見えるかもしれませんが、このように複雑かつ居心地の良い構造の家屋を建てることができたのは、裕福な家族だけだったのです」
とシュヴィーツの記念建造物保存管理人のマルクス・バメルト氏は歩きながら語った。貧しい人々は、木の杭を柱にして建てられた簡単なつくりの小屋に住んでいた。そうした小屋はとうの昔に姿を消してしまった。
ベツレヘムの家にもともと住んでいた家族は裕福な一家だったに違いないが、それでも一生懸命に働かなければならなかった。農耕で主な生計を立て、兵役や町の管理業務の役割から得る収入で生活を補っていた。
小さい部屋と低い天井にもかかわらず、これらの古い家に今日も住み続けることを選択した人々がいる。そしてそこに家の長寿の秘密がある。
考古学者のジョルジュ・デスケウドレス氏はシュヴィーツの古い家屋を綿密に研究し、年輪年代学を用いてそれらの家屋の正確な建築年代の測定に取り組んだ。
「常にだれかが住んで丁寧に使ってきたからこれらの家屋が生き残ったのです。誰も住まなくなった瞬間から家は消えていきます」
とデスケウドレス氏は言う。
≪ 誰も住まなくなった瞬間から家は消えていきます ≫
ジョルジュ・デスケウドレス氏
新たな命
ベツレヘムの家は2世帯用のアパートに分けられ、1980年代まで住居として使われていた。現在は博物館として使用されているため、良い状態を維持するために必要な手入れが行われている。
シュタイネン市 ( Steinen )
の近くでは、ベツレヘムの家より1世代若い家屋の修復が1320年からたびたび行われてきた。バメルト氏は建築作業を監督し、すべての仕様や材料が保存基準に合っているかを確認する。同氏は、もうすぐ若い一家がこ
の古い家に住み始め、何百年も前にはぐくまれたデザインに新しい命を吹き込むようになることを喜んでいる。
このように古い家は、何世紀もの間、何代もの住人が何かを少しずつ足したり、取り換えたりして元の家に改良を重ねてきた。家の中では、壁の付け足しや、取り外しが行われた。オープンキッチンには新しいフロアーが
設けられ、差し掛け小屋は母屋の延長になるよう改造された。通常最初に取り換えられるのが窓だが、何に注意すればよいのか少しアドバイスをもらえば、素人でも元の窓がどれか分かる。
こうした改善はあったものの、壁や支えの梁 ( はり ) など家の主要部分が残っていれば、それらの材料から家屋がいつ建てられたかを調べることができる。
パリのノートルダム寺院と同じくらい古いベツレヘムの家は、木造建築としては最古の記録を持っているが、東ヨーロッパにも古い家屋が存在する。それらの大半はまだ調査されていないため、今後建築年代の古さを競
う競争相手となるかもしれない。
正面から見たベツレヘムの家 (Staatsarchiv Schwyz)
動く家
シュヴィーツでは長い年月の間に家の数が増えたが、家が建っている場所を移動したのは1度限りではない。
中世と近代初期においては、家を解体して別の土地へ移動するということをよくしていた。
「16世紀には、ある地所の家を売って他所へ引っ越しさせる企業家さえいました」
とデスケウドレス氏は語る。
既存の家を移しかえることは新しく家を建てるより安上がりで、時間のかからない方法だった。新しい土地で働くために、家を解体して移動する家族もあった。同様に、もし古い家が火事で焼け落ちた場合、所有者は新
たに家を買い、もとの場所に運んで建て直した。
「これは文書や発掘された建築物から判明したことです」
とデスケウドレス氏は説明する。アッペンツェル州での研究によると、古い木造家屋の20%が移送されていたことが判明している。
現在ベツレヘムの家は、イタル・レディング館の壁の内側で安全に守られ、遠い過去へ時間の旅を所望する見学者を迎えている。
クレール・オディア、swissinfo.ch
( 英語からの翻訳、笠原浩美 )
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