ID 12774
登録日 2009年 7月24日
タイトル
荘厳な鍾乳洞と巨樹の里 東京・奥多摩
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新聞名
読売新聞
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元URL.
http://www.yomiuri.co.jp/tabi/domestic/japan/20090723tb04.htm?from=yolsp
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元urltop:
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写真:
写真が掲載されていました
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ポツポツと水滴の岩肌を打つ音が、しきりに聞こえる。洞内の気温は9度。長袖のシャツでも寒い。
東京の西はずれ、山と谷に囲まれた奥多摩のさらに奥に、日原鍾乳洞はある。古くから山岳信仰の地とされ、今は入り口から1周約800メートルの部分が観光用に整備されている。管理職員の原島哲次さん(59)は「と
にかく縦穴が深くて、奥まで極めた人はいない」と話す。
樹齢800年と推定される金袋山のミズナラ。幹が途中から横に曲がっている
「天井知れず」と呼ぶ通路で頭上を仰ぐと、黒々とした闇があるのみだ。
ここへ来たのは、ある詩が頭にあってのこと。氷見敦子の「日原鍾乳洞の『地獄谷』へ降りていく」。1985年、がんにより30歳で亡くなった詩人の、壮絶な遺作だ。
〈重なり合った鍾乳石の割れ目にぽっかりあいた穴の果ては/見きわめることもできず/目を凝らすうちに/とりかえしのつかない所まで来てしまったことに気づく〉
日原森林館では、日本各地の巨樹を展示で紹介している
急な階段を「地獄谷」へと下りる。身をぐっとかがめて細い通路を抜けたとたん、空間が開けた。息をのむ。詩の一節が、目の前の光景と重なる。〈見上げるもの/すべてが/はるかかなたである〉
誰が積んだか、賽の河原のように、至る所に小石が積まれている。照明に照らされてはいても、ここはやはり、冥界の気配を感じてしまう。
洞内には30分もいなかったはずなのに、体はすっかり冷え切っていた。
一息ついた後、近くに登山口がある金袋山(標高1325メートル)のミズナラを目指した。一転、周囲は鳥のさえずりとみずみずしい緑に満ちる。
奥多摩は「日本一の巨樹の里」だ。「地上1・3メートルでの幹回りが3メートル以上」という環境省の調査基準を満たす木が、市町村別で最多の1000本余り確認されている。
意外にも、都道府県別でも東京が4156本と日本一なのだ。もっとも、日原森林館の解説員・高橋弘さん(49)によると、「人口が多いので、それだけよく調べてあるということでしょう」。高橋さんは「人間を超越した存在
」である巨樹に魅せられ、日本中の木を撮ってきた。
登ること1時間余り。明るい林の向こうに、異様な姿が見えた。
幹回り6メートル超、高さ20メートル。人でいえば腰の辺りから、幹がほとんど真横に曲がっている。分厚い唇のような形をしたコブに、振り上げた2本の太い枝。樹皮がうねるさまに、獣じみた生命力を感じる。
樹齢は、推定800年。「曲がっているのは、地滑りで流れてきたせいかもしれない」と高橋さん。どうあっても枝は光を求めて上へ、根は水を求めて下へ、その生命力の強さがこの老樹の個性的な形を生んだとすれば、
その異様さも、けなげに思える。(堀内佑二、写真も)
(次回は北海道・羅臼)
●あし JR東京駅から中央線と青梅線を乗り継ぎ、奥多摩駅まで2時間。駅から東日原までバスで30分。
●問い合わせ 日原保勝会=(電)0428・83・2099。
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