ID 10954
登録日 2009年 3月22日
タイトル
余録:土門拳賞
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新聞名
毎日新聞
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元URL.
http://mainichi.jp/select/opinion/yoroku/news/20090323k0000m070083000c.html
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元urltop:
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写真:
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五位ガ森、三日森などという名前の付いた山がある。それらは山頂までびっしりと樹木に覆われた山であり、神のすみかと考えられていた。97歳の森林生態学者、四手井綱英さんが、そのような説を述べて
いる(ナカニシヤ出版「森林はモリやハヤシではない」)▲確かに日本人には森を神聖なものとあがめる感性がある。代表が鎮守の森だろう。「日本の神様は静かな暗い所がお好きらしく、こうした森に鎮座されるようだ」と
は老生態学者の述懐である。なんともつつましい神様だ▲その四手井さんが「里山」という言葉を使い始めたのは戦後の高度成長のころ。農村に近く、薪を取ったり、堆肥(たいひ)にする落ち葉を拾ったりする森林を指
す専門用語「農用林」を、一般向けに言い換えたのだ。最近は身近な自然を表す代名詞として市民権を得ている▲写真家の今森光彦さん(54)が少年時代、昆虫の美しさに魅せられたのも里山でのことだ。棚田が広がる
琵琶湖近くにアトリエを構え、小さな命が織りなすドラマを追い続ける。海外の砂漠や熱帯雨林にも足を延ばす。第28回「土門拳賞」を受賞した写真集「昆虫 4億年の旅」(新潮社)には昆虫少年の心が満ちている▲SF
映画の怪獣みたいなマレーシアのトビエダカマキリ。アフリカゾウの大きなフンを懸命に転がすアフリカタマオシコガネ。国内の風景も印象深い。ため池にたたずむショウジョウトンボの姿には哲学者然とした風格さえ漂
う▲今森さんはブラジルの奥地で「小さなものの中にこそ、神は宿る」と原住民に教えられた。雑木林であれ熱帯雨林であれ、そこに鎮座まします神々の、なんとチャーミングなことか。
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