ID　10928

登録日　2009年 3月10日

タイトル

花と緑を守る館林で唯一の樹木医・熊倉弘さん

新聞名

毎日新聞

元URL.

http://mainichi.jp/area/gunma/hito/20090310ddlk10070140000c.html

元urltop:

写真:

　

樹勢の回復にやりがい 　＜梅や桃など「光の春」を感じさせる花々がほころび始めた。もうすぐ新緑が目にまぶしい季節を迎える。「桜切る馬鹿、梅切らない馬鹿」といわれるほど、樹木の剪定（せんてい）作業は難しい。ましてや名木と呼ばれ 樹齢を重ねた樹木は、病害虫に侵されやすく、最悪の場合は枯れ死する。こうした事態を未然に防ぎ「花と緑」を守る館林市内でたった一人の樹木医に上手な樹木の育て方を聞いた＞ 　－－樹木医になったきっかけは。
　小さいころに父と埼玉県安行市に植木を見に行くのが好きで、樹木に興味を持ちました。その後、県立つつじが岡公園のツツジが、歴代の城主に愛され「世界一のツツジ」といわれていることに感動し、挿し木をしてツ ツジ栽培に取り組み、販売を始めました。当初はぜんぜん売れませんでしたので、どうしたら喜ばれるツツジを栽培できるか、１９６３年から館林のツツジをはじめ、全国各地の品種の調査、研究に取り組みました。
　－－樹木医制度は、いつごろからできたのですか。
　昔は農林大臣が認定する準国家試験にパスした人がなりました。今は「日本緑化センター」（東京都港区赤坂）が９１年から新しい制度を始めました。樹木の診断や治療、後継樹の保護・育成などの知識を普及したり、指 導する専門家です。私は９３年に県内では２番目の樹木医として認定されました。全国では１６００人超、県内では３０人（女性２人）が資格を持っています。
　－－これまでの主な活動を教えてください。
　館林のツツジをはじめ、全国各地の園芸品種の調査・研究を２０代から始めました。９８年に東京・練馬の「平成つつじ公園」の品種調査と造成を手がけ、０５年には東京・駒込の国の特別名勝「六義園」のツツジ研究。０７ 年には栃木県足利市の「足利フラワーパーク」のツツジ調査など約４６年間、ツツジや樹木とかかわってきました。
　－－樹木は若木でも枯れるそうですが。
　主な原因は樹木を食べてしまう、人間で言えばがんのような害のあるキノコが付着し、水分や栄養分が木全体に行き届かなくなり、倒れるケースが目立ちます。樹木の診断は、普段から健康な樹木をよく観察しておくこ とです。病気を放置しておくと、菌が内部に侵攻し、ちょっとした傷がある場所から菌がどんどん増殖して、死に至ります。
　－－治療方法は。
　根元に菌がある木や空洞がある木は特に要注意です。じっくり診断して、病原菌をバーナーなどで焼き払い取り除いて殺菌。中をよく乾燥させて、処理した個所をパテなどでふさいでやることが大切です。完治するま でに数年かかる樹木もあり、術後の観察がとても重要です。
　－－思い出に残る治療樹木は。
　沼田市の国天然記念物で推定樹齢１５００年といわれる「大クワ」です。病害虫に侵され、早急に手当てが必要でした。文化庁に治療の申請を提出しましたが、許可が下りるまでに３年もかかりました。今では樹勢も回復 し、やりがいを感じています。また、太田市新田町の生島神社境内のクヌギ（樹齢１０００年）や、明和町立東小学校のプラタナス（同１２０年）など、心に残る名木、樹木はたくさんあります。
取材後記 　０８年度に開催された「第２５回全国都市緑化ぐんまフェア」の花と緑のコンテストで、竹垣と灯籠（とうろう）を創作。緑による四季の移り変わりを求め、ツツジの花の豪華さを表現した庭園が、総合部門で優秀賞・金賞に 輝いた。このほか、０８年度館林市環境賞（調査・研究部門）に選ばれるなど、樹木への愛情は並大抵ではない。その間、ツツジの専門書を共同執筆している。将来は長男の幹夫さん（３８）と一緒に花と緑への貢献を夢見 て、県内外を忙しく駆け回っている。