ID 9172
登録日 2008年 10月26日
タイトル
環境保全か、産業振興か 山砂採取巡り対立
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新聞名
朝日新聞
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元URL.
http://mytown.asahi.com/chiba/news.php?k_id=12000000810260004
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元urltop:
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写真:
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国有林がある鬼泪(き・なだ)山(富津市、約201メートル)からの山砂採取をめぐり、地場産業の振興を訴える業者と、環境保全を唱える県との対立が激しさを増している。60~70年代の大規模採取以降、
県は原則として国有林からの採取は認めてこなかった。それに対して業者は自民党県議団に働き掛け、採取の是非を判断する審議会を9年ぶりに再開せざるを得ない状況まで県を追い込んだ。現時点で審議会は「容認
派」が多数とみられるだけに県の対応が注目されそうだ。(長屋護)
「環境に配慮した事業推進をお誓いする」
9日午前、県議会商工労働企業常任委員会。山砂採取の請願書を提出した6社の代表者は、羽田空港の滑走路埋め立て事業に伴う大量の山砂採取で民有林の山砂が枯渇することを理由に国有林からの採取の必要性
を訴えた。
国有林からの山砂採取がもたらす経済波及効果を、ちばぎん総合研究所(千葉市)に分析してもらったA4判51ページの報告書も提出。「第三者的立場からみて、地域経済、県内経済への貢献度は高く、実施は望ましい」
とする総研の見解も紹介した。
委員会では、県議の約半数は事前に渡された報告書を読んでおらず、現地を視察したこともなかったことから「継続審議にすべきだ」との意見が出た。また、「報告書は環境保全の視点が欠けている」との指摘もあった
が、1時間ほどで審議は終了。請願は常任委で賛成多数で採択すべきだと決め、15日の県議会最終日に正式に採択された。請願を取り次いだ県議(自民)の1人は「富津、木更津、君津、袖ケ浦で山砂採取にかかわる人
は約3千人。地場産業の存続にかかわる問題だ」と強調した。
県議会の決定に県は戸惑いを隠せない。県は73年制定の「自然環境保全条例」を踏まえ、国有林からの山砂採取を認めない方針に転換、79年11月で業者の採取を終了させているからだ。東京湾アクアラインの建設
に必要な山砂は「県の発展に関連が深く、公共性が高い」として88年に例外的に認めたが、その後は業者の再三の要望にも「現時点でそのような案件はない」と退けてきた。
山砂の運搬を手掛ける君津市の運送業者は「国有林だからといって、こんな厳しい規制をする自治体は千葉県以外にはない」とぼやく。それでも県は砂利の年間採取量(05年)が茨城や栃木の約6倍、埼玉の約12倍と
なっており、関東地方の中でも砂利採取に伴う自然環境への負荷が大きいとして取り合わない。
県森林課によると、70年度に約18万2千ヘクタールあった森林面積は、07年度には約16万1千ヘクタールと1割強減少。山砂採取だけでなく宅地開発なども影響しているが、日本の森林面積が30年前と比べほとん
ど減少していない中で「異常といえる数値だ」という。
とはいえ県も県議会で採択された請願を無視できず、早ければ年内に土石採取対策審議会を開き、国有林からの採取の是非を諮問する。
審議会の委員のうち「環境派」は県の認識に近い。
山田利博・東京大学教授(林学)は涼しい気候を好むマツの生息地域が県内で急速に減少していることから「スギやヒノキであっても温室効果ガスを吸収する効果は高く、安易な伐採はすべきではない」。丸田恵美子・
東邦大学教授(植物生態学)も「採取候補地の一角に伐採したら復元まで数百年かかる希少性の高い樹木が生息している可能性がある」と話す。
ただ、定数15の委員の中には今回の請願を取り次いだ4人の自民県議が名を連ね、山砂事業にかかわる土石、運輸両業界からも3人参加する。
堂本暁子知事は「鬼泪山に隣接する浅間山が砂利の採取でなくなった現実を重く受け止めている。国有林は、国民の財産であり、審議会の多数決だけで決めるのではなく、広く県民の意見を聞いて判断したい」と話して
いる。
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