ID : 11624
公開日 : 2009年 5月 9日
タイトル
MyMaiTree:あすを植えよう 宮脇さんと識者ら対談
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新聞名
毎日新聞
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元URL.
http://mainichi.jp/life/ecology/news/20090510ddm010040041000c.html
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元urltop:
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写真:
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◇山と森、国土を治める新たな一歩を
戦後、杉、ヒノキなど針葉樹の単層林づくりを推進してきた林野行政は、2009年度から国有林内において潜在自然植生を活用した森林造成事業で新たな一歩を踏み出す。土地本来の木を中心に多くの樹種を交ぜて
密植する宮脇昭・横浜国立大名誉教授の、植生生態学の理論に基づいた森林再生方法を直轄事業として初めて導入、6月にモデル事業に着手する。森林環境への国民の要望が多様化し、多様な森林づくりを国民が求め
ていることなどが背景にある。あすの地球環境に向けた対談特集「次世代へのメッセージ」第3回は題して「山と森、国土を治める新たな一歩を」。最初の予定地となる広島県呉市の国有林現地調査に同行した宮脇さん
と島田泰助同庁次長に、新しい「山づくり」の課題と哲学を語り合ってもらった。【司会・毎日新聞水と緑の地球環境本部マイマイツリーキャンペーン事務局 恩田重男、写真・橋本政明】
◇林野事業に新方式導入--林野庁次長・島田泰助さん
◇土地本来の樹木を密植--横浜国立大学名誉教授・宮脇昭さん
--国有林の森林づくりに宮脇さんの方式を導入する理由は何ですか。
島田次長 林野庁の山づくりは戦後、戦争で荒れた森林を早く復興させ、木材不足に対応するために単層林型の杉、ヒノキ等の針葉樹による植林を中心としてきました。この方式でなかったら1000万ヘクタールを超え
る現在の広大な人工林はできなかったと思っています。しかし近年、多様な森づくりを、という国民の声が強くなっています。宮脇先生の潜在自然植生を活用した植林方法は、こうした声に応えていく上で大変優れた方法
であり、何とか活用できないかと考えたところです。
宮脇さん 杉、ヒノキ、松も大事です。植生生態学の立場からは同時に広葉樹も植えてほしいと思っていましたが、これまで機会がありませんでした。今回国有林におけるエコロジカルな森づくりにともに取り組めること
になり大変感動しています。国有林を守り育ててきたプロの林業技術に、わずかでもエコロジカルな、植生生態学のノウハウを入れてもらい、国土保全と、1億2000万人のいのちと遺伝子とこころ、文化を守る森づくりを
進めてもらう試みに期待しています。
島田次長 杉、ヒノキを中心とした人工林は、健全に育てれば公益的機能が高いし、国土保全の役割も大きい。また、住宅用材としても大変重要なので、今後も日本の伝統である木造住宅用の資材を供給するためにも
、健全な人工林を作る政策はしっかりとやっていかなければなりません。
一方で、若干針葉樹を植え過ぎた部分もあったと思います。今回広島で宮脇先生に見ていただいた風倒木地のような自然条件の厳しいところなどでは、より自然条件に合った多様な森づくりを進める必要があります。
広葉樹と針葉樹を混交させるなど自然の形に近い森づくりは、06年度に改定した森林・林業基本計画の中でも大きな柱の一つとして打ち出しています。
ただ、これまでは広葉樹林のつくり方も下刈りや除伐を行いつつ、目的とする森林の姿に誘導するなどの取り組みを行ってきました。今回宮脇先生と試行するのは、我々にとっては全く新しいやり方です。特に条件の厳
しい急斜面や風倒木地などで効果が上げられることを期待しています。我々の森林づくりの経験や技術も生かして、広葉樹を活用した新しい森林づくりの方策を作り上げられればと考えています。
宮脇さん 立地条件が合い、管理されて経済的にも対応できるなら、ぜひ日本の伝統的な建築材である杉、ヒノキあるいはカラマツも植えていただければいいと思います。しかし、人間の体で言えば目のような弱くて
敏感なところ、尾根筋や急斜面や水際など、また風倒木の被害地などは、画一的でなく、土地本来の深根性、直根性の根が充満した主木群の幼苗を中心に植えていただく。高木、亜高木、低木をセットに混植・密植すると
、周りには、林縁群落で、野鳥が運んできた花木、低木が帯状にできます。
基本的に被害地でも今ある木は残しながら、土地本来の木、東北南部から以西の標高800メートル付近までは、シイ、タブ、カシ類、それ以上の高地や東北、北海道は、ミズナラやカエデ類、カシワなどの落葉広葉樹を
植えていただく。そういう形で国土の特性に応じた使い方をお願いしたい。
広葉樹は金にならないといわれるが、ドイツのように80年伐期、120年伐期で製材すれば高く売れます。高木になったら切って、焼かずに建築材や家具に使っていただく。ヒノキなどは切ると植えなければならないが
、広葉樹は自然に後継樹が待っています。
--宮脇さん指導の方法で評価するところと課題を。
島田次長 評価する点は、内外で先生の実績が1600カ所を超えるということです。更に魅力なのは、植栽後の森林管理費用ですね。植えるときは従来より経費が相当にかかり増しになるようですが、3年くらい管理す
れば、あとは下刈りから除伐、間伐という部分が、将来にわたって軽減されそうです。過去の例などで見る限り苗木の成長も極めていい。ただ、広く事業化するためには、トータルコスト等を更に検証することが必要です。
モデル実施して結果を広く共有していければと考えています。また、課題は、森林整備として林野庁が事業的に取り組んだ例がないということです。森林整備に長年携わってきたプロの人たちに、「この方法は管理の手間
が非常に省けるうえ成長もよく、山でも活用のできる合理的なシステムだ」ということを、どうやって知ってもらい、納得してもらうかということだと思います。国有林の職員も皆、山づくりには自信を持っています。プロの人
たちを納得させるためには国有林のより厳しい条件の現場で実験して結果を示すことが必要です。今回、国有林で行う取り組みについても、民有林も含めて広く発信して、できるだけ多くの林業関係の人たちに、多様な
森林づくりの有効な方策として、宮脇先生ご指導の「山づくり」が受け入れられるようになっていけばと考えています。個別の課題は地域によって違うので、ひとつずつ対応していくことになると思います。
宮脇さん 現場で議論し、体で理解していただきながら、課題を乗り越えてもらいたいですね。黒衣になってお手伝いさせていただきます。
--広島を最初の試験場所に選んだ経緯を伺います。
島田次長 モデル候補地として杉、ヒノキの森林づくりではない形での再生が望ましい3カ所を宮脇先生に相談しました。東北地方の落葉広葉樹エリアの地すべり被災地と火山噴火のガスで荒廃した三宅島の森林、それ
と広島の台風被災地です。立地などから広島でまず始めてみることになりました。国有林は国土の約2割を占めさまざまな条件の場所があります。広島の成果を皆で共有して、各地で着実に潜在自然植生を活用したモデ
ル的な取り組みを広めることができればと考えています。
宮脇さん クレメンツの遷移説では、自然に任せると、本来の広葉樹の森になるには150年くらいかかりますが、土地本来の木を中心に根の充満した多種類の苗を植えていただけば、十数年から数十年で限りなく自然
に近い森になります。
--国民とともに進める国有林管理ということで、次世代へのメッセージを。
島田次長 森林の問題は国土保全、地球温暖化、生物多様性等の問題とともに、林業という面からは地域の活性化にもつながる国民の大きな関心事です。国有林では、従来、民有林に先駆けて新しい技術の導入・定着
に積極的に取り組み、その成果が民有林に普及するよう努めてきました。今後とも国有林の技術を生かしながら、国民の皆さんとともに国土の3分の2を占める森林を活力あるものにするために、針葉樹、広葉樹それぞ
れの特性を生かし、調和のとれた多様な山づくりを目指して林野行政に取り組んでいきたいと思います。
宮脇さん 科学技術がどんなに発展しても、地球上に生きている限り、人間は森をはじめとした植物の寄生者の立場でしか生きていけません。この冷厳な事実を見るときに、森の番人である林野庁、森林管理局、森林
管理署、森林事務所の皆さんと初めて本格的な、現場を通しての協力関係ができることは、私が今まで58年、今か今かと思ってきたことなので誠に感慨深いです。あなたとあなたの家族のため、日本のため、人類の未
来のために、いのちを守る哲学と現場での科学的な実証成果を基本にして、緑環境の総合科学である植生生態学と、伝統的な日本の森林づくりを担ってきた林野庁のノウハウを一体にした新しい森林づくりのシステムを
創造し、発信していただきたいと願っています。
◇あすを植えよう いのちの森・My Mai Tree
土地本来の木(北海道、東北北部、山地ではミズナラ、ブナなど、東北南部以西の標高800メートル付近まではシイ、タブ、カシ類)を中心に多種類の苗木を、自治体などと開催する植樹祭で植える。創刊135年記念
事業として開始、06年から3年余で15道府県28カ所に約19万3000本を植えた。