ID : 11625
公開日 : 2009年 5月 7日
タイトル
偽装の信頼回復・森林保護・新たな収益源 間伐材、紙の原料で“一石三鳥”
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新聞名
フジサンケイ
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元URL.
http://www.business-i.jp/news/ind-page/news/200905080102a.nwc
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元urltop:
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写真:
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製紙メーカーの間で、スギやヒノキなどの間伐材を原料にしたコピー用紙を発売する動きが出始めた。その背景には、製紙業界が再生紙の古紙配合率を実際よりも高く偽っていた偽装問題が昨年に表面化、
業界の信頼が失墜したことがある。この問題を契機に規制が見直され、国など政府機関に対して、古紙以外でも環境に優しい原料を使った用紙を販売する余地が広がった。また、間伐材の利用促進が森林保護につなが
ることから、メーカーでは、間伐材を使った用紙を積極的に売り込んで、汚名返上を果たしたい考えだ。
大王製紙と三菱製紙は4月に相次いで、間伐材を原料の一部に使用したコピー用紙の販売を開始した。ともに、原料全体の1割程度に間伐材を利用する。
スギやヒノキなどの針葉樹では森林の密集化を防ぐために、樹木を間引く間伐を行う必要がある。だが、国内林業の不振が続く中、直接収益に寄与しない間伐がおろそかになり、森林の成長が妨げられるケースが増え
ている。これは温室効果ガスである二酸化炭素(CO2)の吸収源としての森林を損なうことを意味する。
大王、三菱製紙の両社は今回発売したコピー用紙が普及することで間伐材の原料としての利用が広がれば、国内林業にとって間伐材が収益源となり、間伐を促す効果が期待できるとみている。さらに間伐事業の支援
のため、販売代金の一部は森林組合を通じて林業者の補助金などに充てることにした。
両社は「身近なコピー用紙の販売を通じて地球温暖化防止にも貢献したい」としており、政府機関のほか、地球温暖化対策に注力する企業にも普及を図る方針だ。
古紙配合率の偽装問題では、紙の原料を生み出す森林を保護しなければならない製紙業界の姿勢が疑われた。同問題の原因の一つは、政府機関に対して環境に配慮した製品の優先的な購入を義務付ける「グリーン
購入法」の基準。コピー用紙では古紙配合率100%の再生紙のみが対象製品となっていたからだ。 現在の古紙配合技術では顧客の求める品質を確保しながら、基準を満たすように配合率を高めるのが難しい。このた
め、製紙各社が大規模な偽装に走り、環境対応製品全般に対する信頼を傷つける事態を招いた。
この反省を踏まえ4月に変更された基準では、配合率を70%以上に引き下げ、政府機関の購入対象となるコピー用紙の範囲を間伐材など環境に配慮した原料も配合する製品まで広げた。
新基準は不正の再発防止に向け業界の事情に配慮して規制を緩和した。メーカー側にはこれを最大限活用して森林保護の姿勢を改めて鮮明にし、信頼回復を進めることが求められる。
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【予報図】
■配合率高めれば用途拡大
間伐材を配合したコピー用紙は、身近な紙を通じ、間伐促進などの森林保護に貢献できるため、今後、官公庁を中心に採用の動きが広がる公算が大きい。
また、民間企業でもグリーン購入法の基準に適合した製品を使用する傾向が強まっていることから、間伐材を使った用紙の利用が一段と広がる可能性もある。このため大王、三菱製紙以外のメーカーもこうした用紙の
開発・販売を今後検討するとみられる。
間伐材はスギやヒノキなど、木材の繊維が長く硬い樹木が中心。原料に使うと、紙が硬くなる傾向がある。封筒用紙や段ボール紙など頑丈さが要求される紙には適しているが、印刷向きの軟かい紙質が必要なコピー用
紙の原料としては、「全体の1割程度を配合するのが限界で、それ以上配合率を上げると使い物にならない」(製紙大手)のが現状だ。
不況によって紙の生産量が落ち込み、今後、古紙の供給も減っていくと予測される中、環境に配慮した用紙の生産拡大を図るには、メーカー各社が間伐材の配合率を高める技術的な工夫を、どれだけ進められるかが
焦点になる。