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- ID:
- 26742
- 年度:
- 2013
- 月日:
- 0204
- 見出し:
- 社説[世界遺産リスト]保護の機運を高めよう
- 新聞名:
- 沖縄タイムス
- 元URL:
- http://article.okinawatimes.co.jp/article/2013-02-02_44753
- 写真・動画など:
- なし
- 記事内容
- 政府は沖縄、鹿児島両県にまたがる「奄美・琉球」を国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界自然遺産「暫定リスト」に載せることを決めた。暫定リストに掲載されると、正式な登録候補地とみなされ、世界自然遺産登録に向けた大きな一歩となる。政府は、ユネスコに推薦し、2016年夏の登録を目指す。
対象地域の具体的な絞り込みはこれからだが、沖縄本島北部(やんばる)、西表島、奄美大島、徳之島の中から確定していく。登録が実現すれば、世界自然遺産としては国内で5件目である。
奄美・琉球は、地殻変動で大陸から分離し、島々も分離・結合を繰り返す中で形成された。このため独自の生態系や生物多様性が育まれた「ホットスポット」である。
ヤンバルクイナやイリオモテヤマネコ、アマミノクロウサギなど固有種が数多く生息する。登録に当たって審査を担当する国際自然保護連合(IUCN)の吉田正人日本委員会会長が指摘するように、奄美・琉球は「ユニークに進化した生物の宝石が並ぶ首飾りのような存在だ」。
沖縄では、2000年に首里城跡など「琉球王国のグスク及び関連遺産群」が世界文化遺産に登録された。世界自然遺産がかなえば、文化と自然の両面で、世界的な存在であることが認められる。
海洋リゾートだけでなく、環境と観光を結び付けたエコツーリズムなど新たな沖縄観光の展開という点でも、大きな弾みになる。
課題もある。登録には国立公園化とヤンバルクイナなど絶滅危惧種の保護措置、外来生物対策が前提だが、十分ではない。
広大な米軍北部訓練場の存在もネックになる。北部訓練場では垂直離着陸輸送機オスプレイの着陸帯が東村高江一帯で建設中である。オスプレイの訓練は、同地域の生物に危機的な影響を与える可能性が高い。
訓練場の周辺を国立公園化する考えがあるようだが、世界自然遺産と、米軍が排他的な管理権を有する訓練場が隣接するのでは、たとえ緩衝地帯を確保したとしても、生態系と生物多様性を保つことができるかどうか疑問が残る。
林業で生計を立てている地元住民の理解を得ることも不可欠だ。林業者からは世界自然遺産登録のメリット、デメリットの説明がないとして、環境省への不信の声が上がっている。地元の理解なくして登録は進められず、環境省には丁寧な説明を求めたい。
鹿児島県は、奄美群島の自然の豊かさを学ぶための教材を作成し、小学生、中学生が活用しているという。身近にある世界的に貴重な生態系と生物多様性を子どもたちに気付かせ、絶好の環境教育になっているに違いない。
地域のNPOなどと連携してシンポジウムや「公開講座」も開催しており、世界遺産登録に向けた取り組みを積極的に進めている。
地元の熱意は登録の重要な力になる。県でも、鹿児島県の取り組みを参考にし全県的な機運を盛り上げたい。
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