v10.0
- ID:
- 28901
- 年度:
- 2013
- 月日:
- 1028
- 見出し:
- もう一度食べたい:ムクの実 甘酸っぱい、幼い頃の記憶=津武欣也
- 新聞名:
- 毎日JP
- 元URL:
- http://mainichi.jp/feature/news/20131028ddm013100032000c.html
- 写真・動画など:
- なし
- 記事内容
- それの本当の名を知ったのは中学に入ったころだろうか。それまで「モク」と呼んでいた木の実である。手にした図鑑には「ムク(椋)の実」と記してあった。秋の運動会のころ、高い木の枝先に実る小さな果実。黒く熟れた実は甘く、田舎の子どもたちにとって、格好のおやつだった。この秋、そんな思い出を綴(つづ)
ったはがきに目が留まった。−−「ムクの実、あの甘酸っぱい味が忘れられません」。
◇黒砂糖の甘み、ブランデーのような香り
差出人は福岡県古賀市の主婦、矢野ミノブさん(65)。「子どものころ、母の実家(福岡県行橋市)のイナヤ(稲屋?)脇に大きなムクの木があり、その熟れた実が食べたくてイナヤの屋根に上り、採って食べたことがあります。祖父に見つかり、慌てて屋根から飛び降りた思い出とともに、あのムクの実の味が
今も、懐かしく思い出されます」とあった。その文面を追いながら、私もまた、50年も前の思い出に浸った。
田舎(広島県大崎上島町)で「モク」と呼んでいた木は、不思議とどれも大木だった。最も地面に近い枝でさえ6、7メートルの高さがあり、登るのに工夫がいった。そばに生える細いカシやクヌギの木に登り、その木を揺らしながら、横に広がるモクの枝に乗り移るのだ。ちょっとした勇気と身軽さが必要で、大人に
見つかると「なんと危ないことを」と叱られたが、それを示すのがガキ大将の条件だった。
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