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- ID:
- 28884
- 年度:
- 2013
- 月日:
- 1028
- 見出し:
- あぶくま抄
- 新聞名:
- 福島民報
- 元URL:
- http://www.minpo.jp/news/detail/2013102811767
- 写真・動画など:
- なし
- 記事内容
- 「森は失われていた。川が汚れ、魚も姿を消していた」。英国人作家C・W・ニコルさんは、ここ半世紀の母国の取り組みを福島市の講演会で紹介した。景観を復活させる苦労は並大抵でないという。
20歳すぎに来日する。空手を学ぶためだった。夏の暑さにバテてしまう。「涼しい所に行こう」。先輩に誘われ、標高千メートルの高地に登った。ブナの原生林が広がっていた。故郷ウエールズ地方では炭や造船の材料を得る目的で木が切り倒され、牧草地や工業用地になった。同じ島国なのに、どうしてこ
うも違うのか。日本のとりこになる。
震災以降、県内各地で苗木が植えられた。津波に襲われ犠牲者の出た海辺の堤、6号国道沿い、中通りや会津地方の公園にも…。鎮魂への祈り、県民への励ましが込められた。タブノキ、クロマツ、サクラなど樹種は多様だ。木々は土壌を豊かにし、水を蓄え、動植物を呼び戻す。傷ついた心も癒やさ
れるに違いない。
「森づくりは未来を信じること」。ニコルさんは言う。小さな苗木が根付き、枝を張るまでに数十年かかる。間伐や枝打ちなどの手入れが欠かせない。木を植え育てる営みは子や孫への信頼の証しでもある。
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