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- ID:
- 28511
- 年度:
- 2013
- 月日:
- 0902
- 見出し:
- <食卓ものがたり>ヒノキの升(岐阜県大垣市) 意匠凝らし海外で人気
- 新聞名:
- 東京新聞
- 元URL:
- http://www.tokyo-np.co.jp/article/living/life/CK2013083102000165.html
- 写真・動画など:
- 【写真】
- 記事内容
- 川べりの工場に向かって歩くと、ヒノキの香りが濃く立ち込めてきた。岐阜県大垣市の升製作会社「大橋量器」。大垣市には升メーカーが五社あり、全国の生産量の八割を占める。同社は升作りの技術を生かしてビールジョッキ、おちょこなど新たな造形に挑戦し、海外でも人気を集めている。
原料はヒノキの端材。「ヒノキは軟らかく、溝を彫って組むと強固に締まり漏れない。香り、ぬくもり、白木の色、軽くて丈夫なのが升の魅力。余った部分である端材を使うのもいいところ」と大橋博行社長(49)は話す。
木造二階建ての工場には、十人ほどの職人が働く。溝にのりを塗ったり、組んだり、手作業も多い。「最後のかんながけで一気に表面を削ることで、木に水がしみにくくなる」と大橋さん。刃が回る円盤かんなで面を削っていた大橋さんの母、節子さん(72)は爪の先がボロボロだ。「削る厚さの調節は、手で刃
を触って勘で調節します」
大垣市の升生産は明治時代に始まったといわれる。木曽ヒノキの産地に近く、発展したようだ。大橋さんは三代目で、コンピューター会社に勤務後、後を継いだ。八年ほど前から升の技術や佇(たたず)まいを生かし、浅くして塗料を塗った皿、三角すいのような形の「すいちょこ」など新製品を次々に打ち出し
た。
海外に升をお土産として持参する人が多く「直接売りたい」と、二年前からニューヨークの展示会に参加。赤、黄、緑などで彩った升と斜めに傾いた升の酒器セットを服飾ブランド「ポール・スミス」に納め、ニューヨークで販売された。今夏の展示会でもビールジョッキなどが注文を受け、これからシンガポールの
展示会にも初参加する。「後を継いだ時は時代遅れだと思った。今は歴史の中にも登場し、長い伝統がある升の良さを伝えていきたいと誇りを持っている」。大橋さんは力強く語った。
文 ・吉田瑠里 写真・太田朗子
写真
<味わう>
地下水が豊富なことから「水都」と呼ばれる大垣市。夏の風物詩は地下水で冷やした「水まんじゅう」だ。大垣駅近くの商店街の和菓子店「餅惣」では、八角形の升に入れて販売している。
この店では、明治時代から水まんじゅうを売っていたという。「冷蔵庫がなかった時代のお菓子でしょう」と話す6代目の鳥居清社長(43)。「以前はガラスの器でしたが、よく割れた。升は雰囲気も良く、丈夫。大垣に来たら大垣を味わう器で」と勧める。
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