公益的機能・環境保全機能の付加価値を認めるべき
太田:林業がうまくいかない原因はいくつかあります。まず根底にあるのは、森林の機能は、木材生産だけではなく、(水源を涵養したり、災害を防いだりする)公益的機能や環境保全機能といったものを担わされています。ところが、それらの機能(にかかる負担)は内部経済化されていません。背負っている負
担が重すぎるから、助成が必要な面があります。
2番目に、林業生産、あるいは農業生産と工業生産との違いがあります。工業生産は、資源もエネルギーも地下から取り出すから、技術革新が進めば、どんどん生産性は高まります。しかし、光合成を利用する農業や林業はそうはいかない。農業はそれでも、化学肥料を使ったり、機械化したりできるけど、
林業は機械化するといっても植えるときと切るときぐらいです。水も、肥料もやらず、まったく自然なのだから生産性は相対的に低くなるに決まっています。工業の100分の1とか、1000分の1かもしれない。だけど、生産性が異なる産業に従事しているからといって、100分の1の生活費で暮らせるわけではありません
。でも、考えてほしいのは、地下資源を使わず、森林が汚染されていないから、そこからきれいな水が出てくる。それを都市の人は有効に使っているではないですか。環境にかかわっているところについては、その対価を支払うべきです。
都市がフリーライダーになっているということですね。
太田:そうです。その上で林業の中身の問題はどうかというと、外材との戦いに負けているわけです。外材が自由化されたのは50年前です。どうして外材に負けるのかというと、外材の方が平らなところで生産しているとか、機械化しているとか、流通ルートが作られるとか、大量に伐採ができるとか、いろいろな
理由があります。それからスギやヒノキを日本の材というけれど、スギやヒノキの純林はほんの少ししかありません。地元のものではない木を育てているから、枝打ちしたり、下刈りしたりしなければならず、手入れの費用ががかかるのです。
では、対抗できるのはどこかというと、外材は運搬距離が長くて、環境負荷も高いはずです。それをウッドマイレージと言いますが、「ウッドマイレージが小さいものを買わなければならない」と言っても、市場は重視しません。輸送に使う石油エネルギーが安いから。化石燃料を使うことが本当に地球にとって悪い
ことなんだと、みんな切実に思っていないから結局、ウッドマイレージは使われない。地球が地下に蓄積してきた資源を使うことは、地球の進化に逆行していることをもっと主張しなくてはいけません。
もちろん、林業の中にも問題はあります。江戸時代から300年間、日本は木が足りなかったので、木を植えて、大きくしさえすればいくらでも売れた時代が続きました。今も、生産者が消費者のニーズに合うものを生産していないという面があると思います。ただ、たとえ生産者が努力しても越えられない、もっと大き
な問題もあるだろうと私は思います。
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