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- ID:
- 34349
- 年度:
- 2015
- 月日:
- 1130
- 見出し:
- 樹木医 叩いて刺して“診断”緑の患者を守る
- 新聞名:
- スポーツニッポン
- 元URL:
- http://www.sponichi.co.jp/society/news/2015/11/30/kiji/K20151130011600290.html
- 写真・動画など:
- 【写真】
- 記事内容
- 落ち葉の季節、街の街路樹はすっかり裸になってしまった。一見、元気のなさそうな木。突然倒れてくることはないのか、大きな枝が落ちてくることはないのか。そんな心配を取り除くため、樹木の管理や保全を請け負う「樹木医」という仕事がある。環境問題への関心が高まる現在、活躍の場が広がっている。
11月下旬、樹木医の美濃又哲男(56)は都心の桜並木で黙々と作業をしていた。JR中央線沿いに広がる並木道は春は大勢の人出でにぎわうが、この季節は通行人がまばら。
美濃又は根元に白いキノコの塊を発見した。根から幹を腐らせるベッコウタケだった。放っておけば、木が腐って倒れてしまう危険がある。腐り具合を調べるために取り出したのは「鋼(こう)棒」という細長い棒。キノコと幹の隙間にグッと刺すと、深さ10センチほどで止まった。もし腐っていれば、もっと奥まで入る。「
状態はひどくはないですね」と安堵(あんど)して、専用のカルテに記入した。
樹木医は、専用機器を使って木が腐っていないか調べたり、弱ってきた木を回復させたり、病気になった木の治療をしたりと仕事は多岐にわたる。
この日は桜並木の安全確認。自身が理事長を務めるNPO法人「東京樹木医プロジェクト」として請け負った。6人体制で、木が倒れるなど危険がないか、約150本を1本ずつ調べた。
細かい異変も見逃さない。高さ4メートルほどの位置に伸びた枝についたキノコを指さし、「放っておくと枝が腐って、落ちてきたら危ないなあ」とつぶやく。その後も、見落としがないように木の周囲をあちこち動き回った。主観を入れず木の情報をくまなく集めることが調査の鉄則。「医師と同じで、その日の気分で
診断が変わったら“患者”が困るでしょ」と、帽子の下から笑顔をのぞかせた。
樹木医は、一般財団法人「日本緑化センター」が認定する資格。温暖化や環境汚染から緑を守り、管理する動きが広がったことを背景に、1991年に制度が誕生した。医師のような国家資格ではないが、樹木に関わる実務に7年以上携わっていることなど資格取得のハードルは高い。造園業者、研究者、
コンサルタントなど有資格者は幅広い。
美濃又は東京農工大で土壌学を専攻し、卒業後、就職先も専攻を生かせる会社を選んだ。91年に一度樹木医を取得しようとしたが書類審査ではじかれた。92年、勤め先を辞めて土壌調査の会社を設立したものの「真面目にこつこつやっていれば仕事が広がっていくと思ったが、そうならなかった」と話す。
転機は99年。樹木医の1次審査が書類審査から筆記試験に変更されたことを受け再挑戦、猛勉強の末に合格率3割未満の難関を突破した。
仕事の醍醐味(だいごみ)は「長い時間をかけて同じ木に関わることができること。木が元気になっていく過程を見るのがうれしい」と語る。東京都目黒区の寺院から樹齢300年の大イチョウの樹勢回復を頼まれた時は、土に空気を送る機械を使って土壌そのものを改善。1年後、鮮やかな緑がよみがえった
。
人々の緑、環境への関心は高まっている。だが、木そのものをどうやって長生きさせるか、守っていくかへの理解はまだ低い。落ち葉が邪魔だからと行政に苦情が入り、強引に枝を切られたケヤキ、根を切られて幹が腐朽した桜の木…。美濃又は樹木医としての仕事が年々増えていることを実感する一方で
、いまだに「木の扱いが凄いぞんざい」と嘆く。「どうすれば樹木医という専門家が社会の中でもっと活用してもらえるか」。その答えを見つけるためには、まずは人々の樹木に対する関心を“治療”していく必要がありそうだ。=敬称略=
≪2356人が登録≫樹木医の報酬は、独占禁止法の関係で作業に対する一定の価格を定めることができない。美濃又は、2カ月間の街路樹調査で200万円の報酬を受け取ったこともある。1本あたりの作業料の目安はなく、同じ木でも文化財など価値の高い木に関わった時は報酬も高い。日本緑化センターによれば、2014年12月時点で2356人(うち女性218人)が樹木医として登録されている。
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