v10.0
- ID:
- 33923
- 年度:
- 2015
- 月日:
- 0928
- 見出し:
- 近江酒蔵巡り:隠れたる「宝庫」をゆく/5 藤居本家 「文化」伝える、ケヤキの蔵
- 新聞名:
- 毎日新聞
- 元URL:
- http://mainichi.jp/area/shiga/news/20150928ddlk25040337000c.html
- 写真・動画など:
- なし
- 記事内容
- ケヤキの大木をふんだんに取り入れた酒蔵は豪壮そのもの。宮中で営まれる新嘗祭(にいなめさい)に御神酒(おみき)を献上する名門であると同時に、見学者を積極的に受け入れ、日本酒にまつわる文化の発信に努めている。7代目当主の藤居鐵也さん(67)は「足を運んでもらうことで蔵元の思い、姿勢
、たたずまいを知っていただける。日本酒の歴史や造り方、風土を含めて案内し、『日本酒って、すごい』という感想を積み上げていくことこそファンづくりなのです」と語る。
天保2(1831)年創業。主要銘柄の「旭日(きょくじつ)」は、天に昇る朝日のように勢いが盛んなことを意味する「旭日昇天」から取った。
建築の専門家も注目する建造物群を完成させたのは6代目当主の静子さん。東京女子医大で医師の免許を取得し、卒業後は京都大で生理学を専攻したが、先代の急死に伴い1935(昭和10)年に後を継いだ。その時、胸に刻んでいたのが「男でも女でも酒蔵さえ建ててくれたらいい」という祖父(4代目)
の言葉だった。
建築学も独学し、約20年かけて素材となるケヤキを探した。「よそへ行ったら薄い板にされてしまうよ」。木にこう語りかけるほどの情熱がかない、日本中から銘木が集まった。貯蔵庫や店舗事務所棟は樹齢約700年の丸太が建物を貫き、見る者の度肝を抜く。
この蔵を、藤居さんが「日本酒文化の発信地」として昇華させた。材料をけちらない、そして手間を惜しまない−−がモットー。地産地消にもこだわる。仕込み水は雑味のもととなる鉄分を含まない愛知川水系の伏流水、米は山田錦、玉栄、吟吹雪など酒造好適米のみ。しかも、環境こだわり農法による契約栽
培米に限っており、厳選素材を能登杜氏が醸し上げる。
また、滋賀発祥の幻の酒米・渡船(わたりぶね)六号が農家の努力で復活し、拡大に努めている。更に山田錦の父株といわれる短稈(たんかん)渡船二号もよみがえらせ、七十数年ぶりに仕込んだ。ともに野生種に近く、六号はワイルドな味わい、二号はそれでいて上品なうまみを兼備。この2種の飲み比
べが可能になったことは、農業県のポテンシャルを示す好事例となった。
藤居さんがもう一つ力を入れているのが、蔵の「開放」だ。25年ほど前から、NHK朝の連続ドラマ「甘辛しゃん」などのロケでも使われた国指定登録有形文化財の東蔵を40〜50分かけて自ら案内。仕込み水の試飲に始まり、1200キロもの米を一度に蒸せるこしきや80石の巨大タンクを巡りながら、酒米
や仕込み、貯蔵などの流れを解説する。
更に店舗事務所棟2階にある「200畳のケヤキの大広間」を、音楽会をはじめとする芸術・芸能の発表の場として提供。ゴールデンウイークの「蔵開き」、お盆の「旭日縁日」、晩秋の「初しぼり杉玉フェスタ」などのイベントで、蔵は多くのファンでにぎわう。
県酒造組合の会長も務める藤居さんは言う。「近江の地酒は玉手箱。主人の哲学、杜氏の思いはさまざまですが、レベルは高い。蔵の『生きざま』に共感すれば、応援してもらえる。つながりを深める努力を怠ってはいけません」
..