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- ID:
- 33432
- 年度:
- 2015
- 月日:
- 0706
- 見出し:
- いま求められているのは分散型熱電併給システムを定着させることだ
- 新聞名:
- 環境ビジネスオンライン
- 元URL:
- http://www.kankyo-business.jp/column/010807.php
- 写真・動画など:
- 【写真】
- 記事内容
- ドイツやオーストリアのFITでは、小型の木質バイオマス発電に対する報償額を高めに設定している。その第一の理由は、発電コストが割高になることだが、それと同時に、分散型の熱電併給(CHP)システムを普及させるという政策意図も見逃せない。近年、構造用木材やパルプ用材の需要も増加し、木質原
料の需給は逼迫の一途をたどっている。この貴重な資源を発電だけで使うのはもったいない。発電するなら廃熱も使うCHPで行くべきだという機運が欧州で広がっている。日本においても今後そうした機運が高まることはほぼ間違いない。この4月から実施されることになった小規模木質バイオマス発電の「別区分
化」も、CHPの普及に役立ててこそ意義があると思う。
厄介な買取価格の設定
よく知られているように、蒸気ボイラ・蒸気タービンによる通常の発電方式では「規模の経済」が強く効いてくる。つまり、他の条件を同じにして、出力規模だけを小さくしていくと、発電コストは急角度で上昇する。ところがわが国の木質バイオマスFITでは、出力規模による買取価格の差別化がなされていなかった
。モデルになったのは5MWの蒸気タービンプラントで、これをもとにして定められた買取価格が、規模の大小を問わず、すべてのプラントに一律に適用されていたのである。
こんなやり方はおかしい、小規模発電にもっと配慮すべきだ、とする意見は以前から根強くあった。そうした立場からすれば、今回の小規模発電の「別区分化」は当然の措置であり、遅きに失したとも言えるだろう。しかし規模によって差別化するという問題は、言われるほど単純なことではない。
太陽光や風力発電と違って、木質バイオマスによる発電では燃料の調達コストがとりわけ大きなウェートを占める。ところが森林から出てくる燃料チップの調達コストは低いものから高いものまで幅が大きい。山の条件によってまるで違ってくる。何を基準にして「適正な」買取価格を定めるのか。実際に使われて
いる燃料チップの平均コストを正確に求めて、これをベースにしたとしても、どのみち「支援過剰」と「支援不足」のケースが大量に出てしまう。
買取価格を低く設定すれば、支援過剰は少なくなるが、FITへの応募者は激減するだろう。逆に高く設定すると、支援不足は減って応募者は増えるが、マテリアル利用への激しい食い込みが懸念される。この両者の兼ね合いで買取価格を決めるしかない。バイオマスFIT全体がこんな状態だから、規模による
差別化でも確固とした決め手がなかなか見つからない。
発電技術の不連続性
もう一つ留意すべきは、出力規模が小さくなるにつれて、バイオマス発電の技術やシステムが変わってくることだ。蒸気タービン発電の下限は5MW前後であり、これよりも出力が小さくなると、発電排熱も利用するCHPでないと採算が取れない。さらに1MW前後、ないしはそれ以下の規模になると、ORCタービンや木
材のガス化・ガスエンジンの世界になり、発電よりも熱の生産を重視するケースが増えてくる。とすれば、熱がいくらで売れるかが、CHPプラントの発電コストと採算性を大きく左右する。
いずれにせよ、このように発電技術そのものが変わってくるとなると、蒸気タービン発電で観察されたような出力規模と発電コストとのストレートな関係は見られなくなる。100kW前後のガス化CHPでも、発電効率は30%、熱を含む総合効率で75%を達成する機種も出てきた。そのうえ自動制御が進んでいて、人
手があまりかからない。発電コストを左右するのは、出力の規模よりも前回提示した、次の三条件がどこまで満たされるかである。
より安価な燃料が継続的に確保できること
安定した熱の販売先があること
年間の稼働時間が相当に長いこと
こうした条件が満たされていれば、小規模なプラントであっても、ビジネスとして十分成り立つだろう。ただし、発電専用のプラントなら、送電線が近くにある限り、どこにでも設置できるが、CHPプラントの場合は、熱需要に合わせて設置場所を選び、発電の方式と出力規模を決めなければならない。一般に熱需要
は小口のものがあちこちに分散しているから、これをある程度の規模になるようにまとめるとか、熱を使う新規事業と組み合わせるといった工夫も必要になるだろう。わが国にとっては、まさに新たな挑戦なのである。
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