v10.0
- ID:
- 33394
- 年度:
- 2015
- 月日:
- 0630
- 見出し:
- 銀座も認める椿油。でも「じわじわ行きたい」
- 新聞名:
- 朝日新聞
- 元URL:
- http://www.asahi.com/and_w/interest/SDI2015062972941.html
- 写真・動画など:
- 【写真】
- 記事内容
- 高田製油所4代目の高田義土(よしと)さん(40)が本腰を入れて椿油に向き合い始めたのは25歳のときだった。家業とはいえ、幼い頃から作り方を教え込まれたわけじゃない。当時は祖父と父が主に工場をまわしていた。
「やり始めたときは、見て覚えろという感じでしたね。作業自体は簡単なんです。金型につめて、機械をセットして締めるだけ。シンプルなだけに、僕ができることは設備投資しかない、と思ったんです」
若かった高田さんはお金も借りやすい。まずは借金をして敷地内に大きな倉庫を建てた。
「じいさまのときは、エアコンのない倉庫に1年分の椿の実をしまっていたんです。こりゃあかんだろと思って、湿度と温度が管理できる倉庫を造り、ついでに工場も半分くらい改装しました」
同じ頃、島で出会った女性と結婚もした。借金と同時に家庭を持ったことが、高田さんに火を付けた。
どうやったら商品をもっと魅力的にできるか。品質の向上とともに、“見せ方”にも気を配った。妻と相談し、それまでの少し“古くさい”感じのパッケージを一新した。現在の売れ筋商品、10ミリリットルの小瓶シリーズを作ったのは高田さんだ。
「親父のときは50ミリリットルで売っていたんだけど、サンプルみたいに見えちゃって。だから10ミリリットルにして、ボトルの色も、椿をイメージした赤、白、緑の3色にしたんです。三つあったら、三つそろえたくなるでしょ?(笑)」
子どもが3人生まれた今は、妻は現場を退き、高田さんと義理の兄、そして叔母の3人で主に仕事をまわしている。繁忙期は椿の実を仕入れる9月から3月。その時期は定期的な搾り作業に仕入れが加わり「死にそうに忙しい」という。
昔ながらの作り方を守り続けているので、量産はできないが「これくらいの大きさの工場で、これくらいの商売がちょうどいい」と高田さんは冷静だ。
数年前には、品質の良さを聞きつけて、東急ハンズや銀座松屋のバイヤーが訪れた。今では店のオンラインショップに加えて、東急ハンズと松屋銀座でも買うことができる。新商品開発の話をもちかけられたり、「もっといろんなことやりなよ」と言われることもある。でも高田さんは「大風呂敷を広げるとたためなく
なるでしょ。僕はじわじわ行きたいんですよ」と笑う。
お店の休みは年末年始くらいしかない。とはいえ、暇なときがあれば、ぱっと店を閉めて、数時間海に行ってしまうことも。
「大島はいいところですよ。同級生の半分はUターンしています。本当はみんな戻ってきたいんじゃないかな。自然が豊かで治安もいいから子育てにはすごくいい環境です。買い物するときフェリーですぐお台場だし、温泉ならフェリーに乗って30分で熱海です。渋滞もないし。バランスがいいんですよね」
しかし、都心への近さや便利さがメリットである半面、それがデメリットであるという。
「たとえば東京から一番遠い伊豆諸島、八丈島は飲食店の数も多くて島の中でお金がまわるんです。でも、大島だとみんな島では家で食事をしたりして、島外でお金を使うので、島の中でお金がまわらないんですよ」
でも、「今はちょうど変わり目」だという。最近は20~30代の若い世代が島に移住し、これまでになかったムーブメントが起こり始めている。今年の夏は、料理研究家の人と組んで、島の食材を使った料理イベントをすることも考えている。
..