花粉の飛散状況と桜の開花予測が気になる季節がやってきた。東京の桜は3月25日前後に開花するそうだ。沖縄では1月中旬から桜まつりが開かれ、一方、北海道では5月に入ってようやく開花する地域もある。日本列島が南から北へ春色に染まっていく光景を想像すると、花粉のことはひとまず忘れて外
に飛び出したくなる。満開の桜の木の下で、読書がしたい。
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『桜』『櫻守』『桜の下で待っている』
『桜』
桜には野生種と栽培種がある
世界には約100種の野生の桜が確認されているが、意外なことに日本にはたった10種類しかないそうだ。桜と聞いて私たちが思い描くのは、野生種ではなく栽培種の染井吉野だ。染井吉野は一説によると、短命だと言われているが本当にそうなのか。今、問題視されている「遺伝子汚染」とは…? 毎年春にな
ると、杯を傾け、スマホをかざし、花を愛でるのに、私たちは桜という植物に関して、あまりにも無関心だったようだ。岩波書店の『桜』(著・勝木俊雄、928円)は、桜の研究者が最新の基礎知識を紹介する。野生の「山の桜」と、染井吉野をはじめとする「里の桜」の両方を詳しく解説。さらに桜が日本の文化に与
えた影響などにも触れる。
桜に一生を捧げた男の物語
桜の研究といえば、笹部新太郎という伝説的な人物がいた。明治生まれの笹部は、東京帝国大学法学部を卒業後、犬養毅の秘書を務めたエリートでありながら、定職に就かず、日本全国をめぐり、桜の固有種の研究と保護に私財を投じた。現在も花見の名所として名を馳せる大阪造幣局の通り抜けや奈
良県の吉野などは、笹部の管理・指導によって今の姿となっている。
直木賞作家である水上勉が、笹部をモデルに描いた小説が『櫻守』(新潮社、723円)だ。なつかしくおだやかな関西弁がじんじん心にしみていく。1967年に毎日新聞で連載された作品が書籍化されて以来、長く愛されている名作である。
本屋さんが絶賛する気鋭作家の新作インタビューに呼ばれたり、SNSで推薦されたり、書店員からの評価がめっぽう高い彩瀬まるという作家がいる。今月発売された彼女の最新作は、桜の季節が舞台だ。その名も『桜の下で待っている』(1512円、実業之日本社)。桜の木を縫うように新幹線が走る、ほのぼのした表紙をめくると、東北新幹線で北
上する男女5人の「ふるさと」にまつわる連作短編集が始まる。第5話はタイトルと同じ『桜の下で待っている』だ。両親が離婚している主人公の「さくら」は、自分には「ふるさと」と呼べる場所はないと思っているが…。新幹線の隣の座席に座っていそうな"普通顔"の主人公の心情がていねいに描かれ、自然と話
に引き込まれた。「はじまりの物語」というだけあって、読後はちょっと気持ちがいい。
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