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東大は広大な山林を持ち、理想の林業を目指す。
北海道のほぼ中央、富良野市にある東京大学北海道演習林の面積は2万2755ヘクタール。山手線の内側の面積の3・5倍に相当する。「面積で言えば、東大の99%が演習林です」と梶幹男・北海道演習林長(60)が
笑う。
その歴史は古い。1899年(明治32年)、寒冷地の林業の研究や教育を目的に、国の土地を譲り受けて始まった。農耕に適する土地は農地に開拓することが条件でもあり、「開拓の先兵」の役割も担った。
ドラマ「北の国から」の舞台になった麓郷(ろくごう)は、冬の森林作業を条件に演習林内に入植した人が開いた町だ。地井武男さんの演じた中畑木材社長のモデルになった仲世古善雄さん(63)は「戦後の農地解放後も
、(麓郷の)市街地は1966年まで東大が地主だった。テレビが入るまで、電気も東大の発電所から供給を受けていた」と懐かしそうだ。
かつては、演習林内に木材を運ぶ独自の森林軌道が走り、機関車5台、貨車300台を保有した。温泉旅館の慰安旅行には150人を超す職員が集まった
◎
大正から昭和初期には、年間10万立方メートル以上の木材を伐採したこともあるが、約50年前から取り組んでいるのは、森林生態系の保全と持続的な木材生産の両立を目指した林業だ。
年2%の森林の成長分だけを、樹種のバランスにも配慮して、10年に1度伐採する「林分施業法(りんぶんせぎょうほう)」。紅葉の季節、演習林の山は、赤(オオモミジ)、黄(ウダイカンバ)、茶(ミズナラ)、緑(エゾマツ
)のモザイクとなる。見た目は自然林と変わらず、「長期間、伐採せずに保護してきた場所と比べても見劣りしない」と梶・林長は胸を張る。
現在の伐採は年3万立方メートル。北海道の国有林は、材木になる木を切り過ぎて、貧弱化した場所もあるだけに、優等生ぶりが目立つ。同演習林の約3倍の森林を持つ北海道大の木材生産量は年4000立方メートル
ほどでしかない。
今では貴重となった内装材用のウダイカンバは、毎年冬の旭川市の銘木市で、高値で取引される。
しかし、こうした林業経営ができるのは、広大で、多種多様な樹木があればこそだ。土地は比較的平坦(へいたん)で、林道の総延長は東京までの距離に相当する930キロ・メートルもあり、伐採などの作業も楽だ。林分
施業法の見学者は絶えないが、険しい山岳地で、土地も狭い多くの林業者には、まねできないのが現実だ。
しかも、これだけ恵まれた条件にもかかわらず、木材価格の低迷などで、この30年は大量の風倒木を売却した5年間を除いて赤字が続く。臨時職員を含む約50人の職員で、収入は約1億5000万円あるが、毎年3億
円以上の赤字が出ている。
「黒字にするだけなら、たくさん切れば良いが、将来を見据えて理想を掲げ、実践することが大切だ。森林はみんなの財産。長い目で見てほしい」と訴える梶・林長。経営に苦しむ演習林の姿は日本の林業の縮図でもあ
る。(杉森純)
東大の演習林は7か所 東大の演習林は1894年に指定された房総半島の「千葉演習林」が最初。北海道のほか、秩父(埼玉)、愛知、富士(山梨)にもある。樹芸研究所(静岡)、田無試験地(東京)を合わせた7か所で
総面積は約3万2000ヘクタール。戦前は、中国、朝鮮半島、台湾、樺太にもあった。地形や気候に合わせた林業の研究、森林生態系調査、森林の保健休養機能の開発などが目的。季節ごとに一般開放もされている。++
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