ID : 1842
公開日 : 2006年 10月14日
タイトル
国は踏み込んだ支援を 新林業基本計画
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新聞名
西日本新聞
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元URL.
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/column/syasetu/20061014/20061014_004.shtml
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元urltop:
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写真:
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林野庁によると、昨年の木材の国内自給率が20%を上回る見込みとなった。前年比でわずか2ポイント程度の増加ではあるが、20%を超えるのは7年ぶりである。
林野庁は林業復活の兆しと評価するが、決して高い水準ではない。林業に対する国の支援が必要なことをあらためて示したと言えるのではないか。
その意味で注目されるのが政府が策定した新たな「森林・林業基本計画」だ。10年後の木材供給量の目標として、2004年比35%増の2300万立方メートルを掲げ、実現に向けて山林からの大量出荷と大規模化した製材工場での大量生産によるコスト引き下げを打ち出した。
九州で生産量の多いスギ1立方メートルの全国平均価格(中丸太)は、現在約1万2000円。安価な輸入材に引きずられる形でこの5年間で20%以上も下落した。
ただ、価格下落が国産材の利用を増やしたのは確かだ。新計画はこうした現状を追認し、低価格でも成り立つ林業経営を目指している。
しかし、民有林所有者の75%が、所有面積が5ヘクタール未満と規模が小さい。製材も大半が小規模・零細業者という。
林野庁は「これまでの護送船団方式では輸入材に奪われたシェアを奪回できない」と言うが、集約化、大規模化ができない小規模・零細事業者の切り捨てにつながるのなら、賛成できない。
国産材の価格が低下しても製材業者からは「口径が大きく、加工しやすい輸入材を使う」との声が聞かれる。
市場では今も国産材はだぶつき気味で、山林所有者の出荷意欲は盛り上がってはいない。林道に遠く、搬出コストが高い山林などでは、手入れを放棄する所有者もいるという。
新計画は、植林から50‐60年で伐採・販売し、再び植林する林業経営のサイクルを見直し、「100年先を見通した森林づくり」も盛り込んでいる。
しかしこれも、50年たっても伐採できない現状を追認した側面がある。今を打開できない山林所有者らに、長期計画を望むことが現実的とは思えない。
「森林・林業基本計画」は2001年に初めて策定され、今回が初の見直しである。前の計画が定めた「10年に2500万立方メートルの木材供給量」の目標達成が困難となった要因とされる高齢化による林業経営意欲の衰えへの対策も新計画には盛り込んでほしかった。
森林は国土保全、水源涵養(かんよう)、地球温暖化防止など多面的な機能を持つ。これを維持するには間伐や伐採後の植樹など継続的に人が手を入れることが必要だ。
それを経営が苦しい零細業者の自助努力に依存していることに、問題はないのだろうか。価格などの現状を後追いするような対応策では、健全な森林づくりは難しい。森林の機能が国民に恩恵を与えていることを考えれば、もう一段踏み込んだ国の支援があっていいはずだ。