ID : 15125
公開日 : 2010年 2月25日
タイトル
航空機利用のCO2を森林吸収で相殺 ANAが始めた乗客との“協働”
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新聞名
nikkei BPnet
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元URL.
http://eco.nikkeibp.co.jp/article/special/20100218/103233/?P=1
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元urltop:
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写真:
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全日本空輸は2009年秋、日本の森の再生に役立つJ-VERを使ったカーボン・オフセットプログラムをすべての国内線に導入。顧客と共に環境貢献活動を進めるため、搭乗便のCO2排出量を利用客が携帯電話で簡単にオフセットできる仕掛けを用意した。山村再生支援センターが開いた第2回山村きぎょうセミナーから、全日空環境・社会貢献部の渡邊伊知郎担当部長の講演を紹介する。
航空機が出すCO2を吸収する森を育てたい

全日空環境・社会貢献部 渡邊伊知郎担当部長 カーボン・オフセットの良さを広めたい――。その思いで3、4年前に研究を始めたが、調査したところ、93%の顧客がカーボン・オフセットのことを全く知らなかった。消費者にどうアプローチすればうまく浸透するのかを模索し続け、始めたのが「ANAカーボン・オフセットプログラム」だ。2009年9月10日から全国の主要路線、2009年10月1日からは国内線すべてに導入した。
 これは、インターネットに接続できる携帯電話さえあれば、簡単にオフセットに参加できる仕組みだ。搭乗口にあるポスターの2次元コードを読み取り、専用サイトにアクセスする(携帯からアクセスできるURLはhttp://anaoffset.com)。
 搭乗便が排出するCO2の量とオフセットの費用が自動的に表示され、オフセットしたい場合は支払い用の画面に進む。ここでクレジットカード決済が完了すると、画面にはカーボン・オフセットの証明書が表示される。シリアル番号付きの世界でたった1つの証明書で、メールアドレスを登録すれば、同じ証明書がメールで手元にも届く。オフセット料金は、例えば東京都の羽田空港から大阪府の伊丹空港までの片道便なら、CO2排出量は49kg。税込みで500円程度だ(料金は3カ月ごとに見直す)。
 カーボン・オフセットの取り組みは、専門家が語ることが多く、一般の消費者には理解されていないのが実情。過去に当社が実施したエコ・ツアーでも、オフセットをうたうだけではなく、著名人を招いて集客を図る必要があった。今回のプログラムでは、音楽家の坂本龍一氏が代表を務めて国内外で植林・森づくりを進めている社団法人モア・ツリーズと提携して、広告にも坂本氏の写真を掲載した。オフセットの普及には、このようなプロデュースも非常に大切だ。
 このプログラムのように、携帯電話の操作でシリアル番号付き証明書を手に入れられるような、簡便性と楽しさも大事だ。オフセットを広めるには、消費者がおもしろいと感じてくれる仕組みをつくって、関心を持てる形にする必要がある。
ふるさと再生のためにオフセットを呼びかけ
 「あなたのカーボン・オフセットが私たちのふるさとニッポンの森を再生します」というのが、このプログラムの基本コンセプト。モニタリングの結果、オフセットについて全く知らない人の理解を得るには、日本の森といった目に見えるもので訴えた方が良いことがわかった。「オフセット・クレジット制度(J-VER)」「クレジット」「CDM(クリーン開発メカニズム)」「CER(CDMの排出削減量)」などの専門用語は一切使わず、森を再生したいという思いだけを伝えることにした。
 航空機はCO2の排出が避けられない。それを相殺してくれる森林の吸収量がクレジット化されるのを待っていた。J-VERが登場し、日本の森の光合成によってCO2が吸収されるという、とても説明しやすいオフセットが可能になった。このプログラムでは、森林吸収型の事業から発行されたJ-VERだけを使う。海外ではなく国内の森林育成・再生に寄与しながら地球温暖化防止に貢献できる「地産地消型」に特化するためだ。
環境貢献活動は顧客と共に
 プログラムでは、企業自らオフセットする形でも利用客と半分ずつオフセットする形でもなく、あえて利用客だけが支払ってオフセットする形を選んだ。継続的に削減に努力する企業と、オフセットに積極的な利用客とで役割を分担し、共に環境貢献活動を進めようという考え方だ。
 ただ、オフセットの価格が問題だ。あまり安くしてもダンピングされ、取り組みの永続性が保てなくなる恐れがある。利用者には高いと思われるかもしれないが、メイド・イン・ジャパンのクレジットの価値であるという理解を求めたい。忙しい利用客にとっては、このオフセットプログラムは、手早く温暖化対策に参加できる点は便利と感じられるだろう。
 当社自身については、航空機のエンジンの洗い方、水の搭載量、着陸後の走らせ方などに工夫をこらして、あらゆる業務の中でCO2削減を進めている。こうした取り組みを評価する利用客が、自主的にプログラムに参加してくれることを期待している。
2009年9月の第2回山村きぎょうセミナーから採録講演タイトル:J-VER制度の活用と効果
講演者:全日本空輸 CSR推進室 環境・社会貢献部 担当部長・渡邊伊知郎氏