ID : 14596
公開日 : 2010年 1月10日
タイトル
森林保護へ報奨金 20年で国土の5割に回復
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新聞名
毎日新聞
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元URL.
http://mainichi.jp/life/ecology/news/20100111ddm016040032000c.html
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元urltop:
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写真:
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コスタリカの首都サンホセから南東に約65キロ。緑の山に囲まれた標高2000メートルの谷間に、養鯉(ようり)業などを営むセーサル・ビンダスさん(55)、ソニア・チャコンさん(53)夫妻の自宅が建つ。結婚翌年の約30年前、約120ヘクタールの土地を購入。12ヘクタールを牧草地や果樹園として使い、残りは森のまま保存している。大部分が原生林で、バクやイノシシ、シカの仲間など多くの野生動物が生息し、時にピューマも現れる。ソニアさんは「前の地主は木材を切り出すつもりだったが、私たちは生活が苦しいときも木を切ろうとは思わなかった。動物がこの土地にすんでいるのがうれしい」とほほ笑む。
夫妻は97年から10年間、政府機関の国家森林財政基金(FONAFIFO)と、「PES(環境サービスに対する支払い)」の契約を結び、森林保護への報奨として年間3500ドルを受け取った。当時の1世帯あたりの平均月収の4~5倍の額。セーサルさんは「動植物の密猟者の監視や山道の整備など原生林を守るのにはお金と時間がかかる。契約には助けられた」と話す。
セーサル・ビンダスさん(右)とソニア・チャコンさん夫妻=コスタリカのセロ・デ・ラ・ムエルテで2009年11月8日、須賀川理撮影 PESは、森林を保護・再生した地主に報奨を支払う仕組みで、96年に導入された。同基金のオスカル・サンチェス環境サービス部長は「森を守る地主が安定した生活ができるようにすることが大切だ」と説明する。森林には、木材を供給する以外に、二酸化炭素吸収による地球温暖化対策▽水源の保護▽良い景観▽生物多様性の豊かさ--の4項目の効果がある。導入までは、地主に収益をもたらすのは木材生産で、樹木を切らずに森を守るための動機づけはどうしても弱くなりがちだった。
PESで契約の対象となるのは、(1)自然にまかせた森林再生(2)植林による再生(3)森を残しながらの営農(4)既存の森の維持--の4種類あり、1回の契約は5年間((2)のみ15年間)となっている。(1)では毎年1ヘクタールあたり41ドル、(4)では64ドルの報奨が得られる。一方、(2)は最初の5年間に1ヘクタールあたり980ドル、(3)は最初の3年間に木1本あたり1・3ドルが支払われる。さらに、(4)では森が豊富な水源となっている場合と、特に豊かな生態系を持つ場合にそれぞれ16ドルと11ドルが加算される。
08年までに計65万2000ヘクタールを対象に、約8500の契約が結ばれた。支払いの主な財源は、化石燃料に課される税収の3・5%と、世界銀行やドイツ金融復興公庫からの資金援助、企業からの寄付金による。
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コスタリカでは、1950年代以降、農地や牧草地の拡大のため急速に森林伐採が進み、19世紀初頭に国土の9割を占めていた森林面積は、80年代後半には2割まで減少した。政府は70年代後半、国立公園や自然保護区の指定、植林の推奨などを始めたが、私有地では依然伐採が進んだ。そこで、80年代半ば、植林に対する援助金制度を打ち出し、次いでPESを導入した。これらの施策が奏功し、森林面積は約20年間で5割を占めるまで回復した。
サンチェス部長は「政権交代を経ても、政府は一貫して自然保護に積極的だった。小国だが軍隊を持たないため、教育や自然保護に十分なお金を使える」と分析する。