ID : 12492
公開日 : 2009年 7月13日
タイトル
J―VER制度開始、CO2吸収量売買で林業再生
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新聞名
読売新聞
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元URL.
http://www.yomiuri.co.jp/eco/news/20090712-OYT1T00035.htm
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元urltop:
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写真:
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森林による二酸化炭素(CO2)の吸収量を企業などに売却し、山村振興にあてていく環境省と林野庁の「オフセット・クレジット(J―VER)制度」が動き出した。今月1日、自治体や林業会社による三つのプロジ
ェクトが登録され、吸収量算定・売却に向けた手続きが始まった。林業再生の切り札となるのか。(編集委員 河野博子、地方部 大谷秀樹)
◆プロジェクト現場◆
なだらかな斜面を覆うトドマツの林で7日、北海道下川、足寄(あしょろ)、滝上、美幌(びほろ)4町の職員ら24人が、額を寄せ合って書類をのぞき込み、木の高さを測った。
森林30ヘクタールごとに1か所、一定面積の測定区域を設け、その中の平均樹高を測って森林吸収量を割り出すモニタリングを行うための研修だ。「測定区域は、もっと山の中腹まで入った場所でなくていいのか」など
、アドバイザーとして参加した専門家に質問が飛んだ。
4町は、連携して間伐を進め、計2379ヘクタールの町有林から年平均8500トンのCO2吸収量を確保するプロジェクトを進める。
下川町は、モニタリングの準備を進める一方、吸収量を買ってくれる企業を探して営業活動中。「今年中に、最初の売買にこぎつけたい。数社にあたっており、感触は悪くない。欧州の排出量取引では、CO21トンが20
00円前後だが、それより高い値がつくはず」(地域振興課)という。
高知県の森林吸収プロジェクトも登録された。県は期待を膨らませる。「地方が森林吸収を生みだし、都会の企業がそれを購入する。地方と都市をつなぐ新たなビジネスになるのでは」(環境共生課)
しかし、現場はさほど楽観的ではない。
県北東部・大豊町の県有林では、作業員3人が黙々と働いていた。60メートルの高さに張られた架線からスギ林にワイヤが下がり、伐採した木をくくりつけた後、遠隔操作でつり上げる。機械で枝葉をそぎ落とし、トラッ
クへの荷積みに備える。
3人は、県の委託を受けて伐採・搬出を行う「とされいほく」の社員。同社副社長の半田州甫(くにお)さん(66)によると、県内のスギの場合、山主に入るのは、おおむね1本当たり1000円前後。一方、高卒の県庁職員の
初任給は約14万円。半田さんは「昔はスギ1本が、初任給より高い値で売れたのに」と嘆く。
同社は1991年の創業以来、39人を雇ったが、定年退職した3人を除き、残ったのは16人。標高1000メートルを超える現場は冬には雪が降り、寒さが厳しい。平均月収23万円と業界では良い方だが、耐えきれずに
去る若者も少なくない。半田さんは「J―VER制度は林業の追い風になるかもしれないが、雲をつかむような感じだ」とつぶやいた。
◆J―VER制度◆
市民や企業、団体が、自らの温室効果ガス排出量を把握し、削減しきれない分をほかの場所での排出削減や森林による吸収量で相殺(オフセット)するカーボン・オフセットが広まっている。これを背景に、環境省は昨
年11月、J―VER制度を創設。基準を設けて確実に温室効果ガスの排出削減や森林によるCO2吸収が行われていることを認証し、お墨付きを与える。
森林のCO2吸収については、間伐などにより吸収量を確保し、売却できる仕組みが作られた。実際に吸収量が売買されるまで、厳密な手続きが必要だ。
◆なぜ企業が買うのか◆
J―VER制度で森林吸収量を企業が買うとして、どんな使い道があるのか。
制度に関心を寄せる企業51社などで作る「カーボン・オフセット推進ネットワーク」の代表理事を務める全日本空輸は、「企業が主催するイベントや会議、旅行ツアーなどでCO2が排出される分を、吸収量で埋め合わ
せることができる。森林吸収の増進に協力し、地域活性化に貢献していることをPRできる」(広報室)と説明する。
また、法律に基づき、一定量以上の温室効果ガスを出す企業は、排出量を算定・報告し、国が公表しているが、その際、企業は実際の排出量とともに、森林吸収量を差し引いた排出量を併記して報告できるよう、環境
省が制度改正を検討中だ。
京都議定書の期間中、日本経済団体連合会傘下の企業は自主行動計画で削減を実施中。しかし、このCO2の排出削減の一部に森林吸収量をあてることはできない。国内排出量取引の試行制度でも、使えない。
とはいえ、2013年以降の京都議定書に続く次期削減枠組みで、森林吸収量がどう扱われるかは、まだ不明。国内企業が個別の森の吸収量を排出削減の相殺に使えるようになる可能性も残る。企業の中には、こうした
将来の使い道を念頭に、森林に関心を寄せるケースもある。