ID : 12342
公開日 : 2009年 7月 1日
タイトル
「神去なあなあ日常」 三浦しをんさん
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新聞名
読売新聞
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元URL.
http://www.yomiuri.co.jp/book/author/20090630bk01.htm?from=yolsp
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元urltop:
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写真:
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おっとりと木と生きる
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舞台となる三重県中西部には、生前、林業を営んだ父方の祖父の家があった。「東京からよく山奥の家に遊びに行って、100年後に売れる木を育てるのってどんな仕事だろうって気になっていたんです」。幼いころか
らの思いが結実した林業青春小説だ。
フリーター志望だった横浜育ちの青年・勇気は、林業の研修生として山奥の神去(かむさり)集落に放り込まれる。ケータイも通じない不便さに閉口しつつも、山を守る人々の技と気概に引かれていく――。
神去の方言として「なあなあ」(ゆっくり行こう)という言葉を創作したのは、三重の林業関係者への取材で感じた「おっとりのんびりしたムード」を表したかったから。効率優先の都市生活とは違い、季節の移ろいを肌で感
じ、自然への素朴な信仰を大切にする「山の暮らし」のリズムが物語に反映され心地よい。自由奔放な同僚・ヨキや超然とした、繁ばあちゃんら勇気を見守る人々も個性豊かだ。
山での取材の際、生まれて初めてヒルに血を吸われ、ヒーと叫んで笑われた。その作者がもし、勇気と同じ境遇に置かれたら? 「彼みたいに敏捷(びんしょう)じゃないし、『使えねえ』と言われて終わりでしょう。いえ、
『なあなあ』には自信あるんですけどね」(徳間書店、1500円)