ID : 12006
公開日 : 2009年 6月 6日
タイトル
緑のオーナー 何らかの補償必要では
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新聞名
中国新聞
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元URL.
http://www.chugoku-np.co.jp/Syasetu/Sh200906070169.html
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元urltop:
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写真:
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「あなたの資産を形成しながら、わが国の森林を守るシステム」。こんなうたい文句に夢を抱いた人も多かっただろう。国の事業なので、という安心感もあったに違いない。
ところが、林野庁の「緑のオーナー」制度は9割以上が元本割れし、出資者たちが国に損害賠償を求める訴訟に発展した。背景には輸入木材に押される林業の厳しい状況と、林野庁の甘い見通しに基づく制度設計があ
る。きちんと検証し、行政の責任を明らかにするべきである。何らかの損失補てんも検討する必要があろう。
この制度は、国有林のスギ、ヒノキの育成資金への出資を1口50万円(一部は25万円)で募り、15~30年後に立木を売って収益を出資者と国が分け合う仕組み。1984年から98年まで募集し、延べ8万6千人の個人・
団体から500億円を集めた。
林野庁によると、2008年度までに満期を迎え、販売された約760カ所のうち元本を上回ったのは35カ所だけ。1口当たりの平均受領額は約32万円という。
林野庁は2年前、「不適切な勧誘はなく、必要な説明はした」として損失分を補てんしないことを決めている。しかし、問題なのは募集開始から93年まで、パンフレットや契約書に元本割れのリスクについての説明を記
載していなかった点だ。専門家は「林業は補助金をもらって続けている業者も多く、もうからないのは明らかだった」と指摘している。
そうであるならば、投資者が「国に裏切られた」と怒るのも当然だろう。今回提訴した原告は、広島県の2人をはじめ75人。1人当たりの平均契約額は約170万円で、受け取ったのは平均10万円余り。3075万円出資し
て約140万円しか回収できていない人もいるという。
和牛や養殖エビのオーナーになれば高配当が得られる、といった詐欺商法が横行したことがある。緑のオーナー制度は、こうした一般の投資話とは違う。利益とともに緑を育てることを強調した制度である。国民に林
業への関心を呼び起こしたことについては、評価してもいいだろう。
森林を守りたい、というボランティア精神で申し込んだ人もいる。「孫子の代への贈り物」という気持ちである。だが、なけなしのお金をつぎ込んで元本割れに泣いたお年寄りがいることを忘れてはならない。
国に倣って同じような制度を導入した自治体は、満期時に元本を補てんして返還した例が多い。林野庁と比べ、どちらが筋の通った対応だろうか。
国有林事業は70年代後半、外材の自由化や木材需要の低迷などから財政が悪化。集められた資金は国有林の育成費用ではなく、大半が国の林野事業の赤字の穴埋めに使われたという批判もある。事実とすれば言語
道断だ。
緑のオーナー制度の行き詰まりを機に、山を支えるシステムの再構築が急がれる。