ID : 10279
公開日 : 2009年 1月26日
タイトル
支局長からの手紙:イマドキの行動力
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新聞名
毎日新聞
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元URL.
http://mainichi.jp/area/kochi/news/20090126ddlk39070258000c.html
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元urltop:
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写真:
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将来やりたいことが見つからない。公務員になるか、大学院に進むか。一つの出会いが、迷えるイマドキの若いもんを変えました。
出版社が企画した「嶺北いなかインターンシップ」です。井上将太さん(20)=高知大農学部森林科学科3年=は1年の夏、誘われて参加しました。1カ月間、公民館に泊まり、土佐町の製材会社へ通います。人工林の荒
廃を目の当たりにしました。授業では学べなかったことです。「木造の家が建たないと、木の需要が伸びず、山は荒れてしまう。建築を学ぶ学生に木造の良さを伝えられないか」。林業の現場を知ってもらうセミナーの開催
を思い立ちました。
「こんなんじゃ無理」「企画書が甘いんじゃない」。苦心して書いた企画書がこけにされます。2年の春、補助金や講師派遣を求めて、県や大学などを一人で回った時のことです。めげそうになりましたが、怒られるうちに
企画書の書き方が少しずつわかってきました。そうなると楽しくなります。
県の紹介で「高知県森と緑の会」(香美市土佐山田町)を訪ねました。「設計士の卵を対象にしたセミナーを開きたいのです」。応対した女性に約1時間、熱っぽく訴えます。実は理事長でした。「必要な活動です」。鶴の一
声で100万円の交付金が決まります。
セミナーは「森の未来に出会う旅」と命名し、学内に賛同者を募り10人で実行委員会を発足しました。プログラムを考え、木材組合や設計士らに講師を依頼します。
木造建築を学ぶ全国の約60大学に案内を送ります。本番2カ月前という泥縄でした。何人集まるか不安でしたが、20人の募集に対し18人(学生14人、社会人4人)が集まりました。12人が東京や千葉、宮城、熊本など
県外からです。9月、本山町の廃校に1週間泊まり込み、荒廃した森林の見学や間伐体験などをしてもらいました。「自分の考えたことが形になるのがすごく楽しかった」。最終日、参加者から木の色紙を渡されました。サ
プライズです。中央に「将太」。お礼がびっしり寄せ書きされています。「君と出会えたことが大きな宝……」
セミナーは昨夏にも開き、今は継続開催に向けて組織化を考えています。同級生は大不況の中、就職活動の最中ですが、井上さんは就職を考えていません。林業に加え、建築・設計を学ぶ必要性を感じ、木造建築が多
い京都の専門学校に進むつもりです。将来は森の再生に向け、設計士と木材産地の懸け橋になるのが夢です。
今年11月に高知市内で「エンジン01オープンカレッジ」が開かれます。名だたる有識者約100人が手弁当で講師を務めます。その事務局職員が支局を訪ね、大学生の協力が必要という話になりました。「こんな熱い学
生がいる」と名刺を見せ合ったところ、どちらも「井上将太」でした。
肩ひじ張らず笑顔が人懐っこい青年です。「こんな時代だから、逆境を乗り越える力をつけないと」。イマドキの若いもん、侮れません。【