ID : 9764
公開日 : 2008年 12月 8日
タイトル
持続可能な社会を学ぶ 捨てない 残さない もったいない…
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新聞名
中日新聞
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元URL.
http://www.chunichi.co.jp/article/living/life/CK2008120802000110.html
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元urltop:
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写真:
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持続可能な開発のための教育「ESD」への関心が高まっている。ESDは、環境をはじめさまざまな社会問題の解決に向けて自分で考えて行動できる人材を育てようという考え方だ。地域と連携した体験学習
などを通し、子どもたちは持続可能な社会づくりのために何ができるのかを考えている。 (重村敦)
長野県泰阜(やすおか)村。のどかな山間の村にある施設で小中学生十九人が共同生活を送る。NPO法人グリーンウッド自然体験教育センターの山村留学だ。
ストーブや風呂の燃料は間伐材などのまきを使い、野菜は大半が敷地内の畑で取れたもの。生ごみはたい肥にする。食事や掃除、洗濯、風呂などはすべて自分たちでやる。陶芸家の指導で食器も自分で作り、割れた
ら修理して使う。テレビもゲーム機もない生活だ。
毎年のように参加している愛知県岡崎市の中学一年京円(きょうえん)一龍(かずま)君は「作業が面倒くさいと思うこともあるけど、ものを捨てるのがもったいないと思うようになり、食べ物も残さなくなった」と話す。
同NPOによる山村留学は今年で二十三年目。地元の人たちが野菜を分けてくれたり、間伐を指導してくれたりと、地域に溶け込んだ存在になっている。広報担当の佐藤陽平さんは「この地域は、暮らし方そのものが“持
続可能”で、環境保全と経済発展の両立につながっている。ESDの一つのモデルといえるのではないか」と話す。
◇
ESDは、持続可能な社会の実現も目指しており、開発や環境だけでなく、福祉や人権、ジェンダー、異文化理解などさまざまな問題にかかわる。参加型の学びを中心に、問題の解決方法を考え、自ら行動を起こす力を
育てるのが特徴だ。
地域づくりへの期待が大きく、関係省庁が設置したESDに関する円卓会議の議長も務める日本環境教育学会の小沢(こざわ)紀美子会長は「ESDは地域と暮らしを元気にする学び」と強調する。
二〇〇二年の国連の「持続可能な開発のための教育の十年」決議後、政府や国連の旗振りに合わせ、グリーンウッドなどの市民団体や大学などがESDの視点を取り入れたり、普及に努めたりしている。
愛知県春日井市の市民団体「かすがいKIZUNA」は二〇〇六-七年度に環境省のモデル事業に選ばれたことで一から取り組みを始めた。市内の東高森台小学校と協力し、四-六年生の総合的な学習と理科の授業で自
然観察や福祉施設の訪問を実施した。
間伐程度の異なる森で、水が土に染み込む速度と植物の密度や種類を比較する「森の健康診断」の体験では、持続可能な環境をどうすればつくれるかを子どもたちが真剣に考えた。中部大講師も務める上野薫代表は
「自然も人間も多様なんだと気付いてくれれば」と話す。人の悪口を言わなくなるなど子どもに変化も出ているという。同団体はモデル事業が終わっても取り組みを続けている。
ただ、取り組みの広がりはこれからだ。学校教育では、新しい学習指導要領にESDの重要性が盛り込まれたが、現場での認識は十分ではない。東海地方でESDを推進する環境省中部環境パートナーシップオフィス(EP
O中部)などが愛知、岐阜、三重、長野県の市町村教育委員会にアンケート(回収率28%)をした結果、ESDにあてはまる施策があるとの回答は16%だった。NPO法人「持続可能な開発のための教育の10年推進会議」
(ESD-J)の村上千里事務局長は「何をやればESDにつながるのかがまだ十分理解されていない」と指摘する。
こうした状況を踏まえ、ESD-JやEPO中部などは、学校と地域を結ぶESDのコーディネーターの配置や、来年度から始まる教員免許更新制にESD講習を取り入れることなどを提案している。
<ESD> 持続可能な社会を目標に、今ある問題の解決に参加する人材を育てる教育。Education for Sustainable Developmentの略。2002年の南アフリカ・ヨハネスブルクサミットでの日本の提案をきっかけに
国連が同年、「ESDの10年」(2005-14年)を決議。日本では06年に関係省庁が策定した実施計画に基づき、環境と開発を中心テーマにした施策を進める一方、NPOや市民団体などがそれぞれの活動に取り入れて
いる。