ID : 9263
公開日 : 2008年 11月 5日
タイトル
中国産に押される割りばし 吉野ブランド確立を
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新聞名
毎日新聞
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元URL.
http://mainichi.jp/area/nara/news/20081105ddlk29040442000c.html
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元urltop:
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写真:
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消費者とのつながり必要
割りばしは江戸時代、吉野杉を材料に下市町で作られ始めたとみられている。基盤には日本の「木の文化」がある。下市、吉野両町は国内の主要産地だが、この20年ほど中国製に押され、作る人も大幅に減った。【栗
栖健】
世界で日常的にはしを使うのは東アジアとベトナム。割りばしは、日本生まれだ。始まりは、酒樽(さかだる)の材料の樽丸を材木から取った残りの端材を利用した。
今も端材を材料にしており、丸太から柱を取った周りを使っている。酒樽に適したのは節が無く、年輪が細かくて木目が真っすぐな樹齢70年以上の杉。吉野杉はそれらの条件を備える。それが必要なのは割りばしも同
じだ。
割りばしの考案には、北欧とともに白木を好む日本人の感性があったという指摘もある。樽丸の製造開始は「吉野林業全書」によると享保年間(1716~36)。
吉野町では、戦前に下市町から技術を習い、戦後に発展。材料は杉の下市に対し、吉野町はヒノキが主流だ。
20年ほど前、安い中国製が吉野産地を直撃した。人件費が安く、端材を選別して使う吉野産地に対し、丸太を丸ごと使うから効率的だ。木材不況で端材も少なくなった。吉野町の吉野製箸(はし)工業協同組合の組合員
はそのころ135人だったが現在は45人。下市町のある産地問屋は「国産を売りたいが中国産を扱わないとやっていけなかった。今は全国消費の98%が外国製」と言う。
世界の木材需給が厳しくなったのは、中国など新興国の輸入増が大きい。シラカバなど中国の割りばし原料とみられるシベリア材は、ロシアが関税を来年1月から大幅に引き上げる。実質的な輸出禁止だ。中国でも割り
ばしが普及している。
こうした流れは国産材を見直すきっかけになる可能性も考えられるが不確実な点が多い。組合理事の住吉雅彦さん(62)=吉野町南国栖=は「中国のことを正確に知る必要があるが情報が入らない。中国製は値上げ
していると聞いているが我々の所まで反映しない。今、問屋は中国製に近い価格のものを求めるようになった」と説明。これから生き抜く道を「安全性を訴え吉野ブランドの品をつくる必要がある。独自の流通システムと
消費者とのつながりが必要だ」ととらえている。
そして、住吉さんは「木を切った跡に植林して育て、端材まで利用する吉野林業の循環系を守りたい。都市部の人や、消費者にもっと山に目を向けてもらいたい。こんなに結構な資源は無いのに今は大事にされていな
い」と言い切った。立場は違うが、下市町の問屋も「国産の比率を上げたい。外食産業にも少々高くても安全、エコロジーの姿勢を見せたいという企業が出ている」と現状を説明した。
不況が続く吉野の林業地。打開の道は厳しいが「木の良さを前面に出す正攻法しかない」と話す工務店経営者がいた。2人の話に通じるようだ。