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東京都渋谷区にある東京電力「電力館」で今月中旬に開かれた写真展「知られざる多摩川源流の春」に、「最初の一滴」と題する写真が出展された。源流として知られる山梨県・笠取山(1953メートル)の頂上
近くの沢で、木漏れ日を浴びた水滴が今にも落ちようとする一瞬をとらえた作品だ。
撮影したのは、同県小菅村が設立した「多摩川源流研究所」所長の中村文明さん(58)。「多摩川の最初の一滴だから玉のように輝く水滴でなければならんと、4時間待ち続けてやっと撮れたんです」。笑顔を見せる中村
さんは、源流の森を再生させる壮大な計画の中心メンバーだ。
ボランティアが間伐した小菅村内の民有林を見回る中村さん
写真展「知られざる多摩川源流の春」に出展された「最初の一滴」(中村さん提供) 同県塩山市(現・甲州市)で学習塾を経営していた中村さんの人生が一転したのは、1994年7月。趣味の写真撮影のため多摩川源流に
踏み入った時だった。朽ちた倒木から芽を出すミズナラの生命力に感動し、「竜喰(りゅうばみ)出会い滝」「ヤソウ小屋滝」など、不思議な名前の滝の連続に驚いた。
地元の長老しか知らない滝の名の由来を子どもたちに伝えようと、「5年間で420回」(中村さん)も源流に通い、地名の由来の説明を付けた地図「多摩川源流絵図」を作成した。
源流域に位置する小菅村はこのニュースに飛びついた。人口約1000人、過疎化が進む同村は「源流の郷(さと)」としてアピールして観光客を増やそうと、研究所設立を計画していたからだ。01年の設立に際し、村は
「これだけ源流に通った人以外に所長は考えられない」(青柳諭・源流振興課長)と中村さんを村に招いた。
研究所は同年、川の源流をテーマにした全国初のシンポジウムを開催。一方で、運営委員に迎えられた東京農大の宮林茂幸教授(53)らが「源流を守るためには流域の森を守る必要がある」と、樹木の種類や立木密度
などの基礎データを集める「森林診断」を実施した。その結果、林業従事者の高齢化などで放置された民有林の荒廃が進んでいることが分かった。
このため、研究所は03年、「森林再生プロジェクト」をスタート。源流の恩恵を受ける多摩川の中下流域の住民を「緑のボランティア」として募り、間伐や下草狩りを行っている。これまでに延べ1658人が参加し、村内
の18ヘクタールの森林を整備した。10年かけて森林再生を進める考えだ。
官民学一体の取り組みに、二酸化炭素削減に向けた「ECOサポートプラン」を推進する東京電力が05年から加わった。活動資金の提供などで協力する同社環境部の矢野康明さん(47)は、「レベルの高い取り組みと、
何より中村さんの情熱にひかれました」と参加理由を明かす。
「森林の調査や広報活動、他の源流域の人たちとの連携。やることは山積みですが、好きなことなので不思議と疲れませんよ」と中村さん。産官民学が一体となった挑戦は、第一歩を踏み出したばかりだ。(宮井寿光)++
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