ID : 7711
公開日 : 2008年 5月22日
タイトル
アマゾン熱帯雨林、環境保護か開発優先か-
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新聞名
世界日報
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元URL.
http://www.worldtimes.co.jp/w/usa/usa2/kr080521.html
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元urltop:
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写真:
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アマゾン熱帯雨林、環境保護か開発優先か-ブラジル
両立目指すルラ政権
今年一月、アマゾン熱帯雨林の状況を監視している人工衛星が、三年間続いていたアマゾン熱帯雨林の違法伐採による森林減少が止まり、逆に開発による伐採が34%も増加している事実を伝えた。ブラジル政府は
、先週「アマゾン保全開発プラン」と題するアマゾン熱帯雨林地域に関する政策を発表したが、環境保護団体からは保護と同時に開発も並行して行うべきだとするブラジル政府の対応に不満の声も上がっている。
(サンパウロ・綾村 悟)
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「持続可能な開発」主張-国家戦略相
アマゾン熱帯雨林(以下アマゾン)は、世界の森林が出す二酸化炭素の半分以上を吸収し、「地球の肺」と称される。それ故に、アマゾン保護に関しては世界中の環境保護団体や各国政府が注目、「アマゾンはブラジル
のものではなく、われわれのものでもある」(ゴア前米副大統領)と公言する政治家もいるほど。
しかし、過去四十年の間に約20%弱のアマゾンの“貴重な財産(=森林)”が失われている。熱帯雨林減少の理由は、これまでは放牧地造成のための違法伐採だったが、近年は世界的な大豆需要の高まりがアマゾン森
林の保護に大きなプレッシャーを掛けているという。
アマゾン熱帯雨林の七割はブラジルに属する。それ故に、ブラジルでもアマゾンの保護と開発に関する問題は大きく扱われている。
ブラジルのルラ大統領は、二〇〇七年の再選時にアマゾン保護活動家で知られるマリナ・シルバ上院議員を環境相に任命、環境団体の賛辞を集めた。シルバ環境相は、アマゾン保護活動家として知られたチコ・メンデ
ス氏(一九八四年に暗殺)の同僚で、環境問題への積極的な取り組みで知られる。
ところが、シルバ氏は今月十四日、突然、環境相を辞任した。ブラジル国内外の環境問題活動家らは、シルバ氏の辞任が政府内の開発を優先する政治勢力に有利に働き、環境問題への取り組みが後退するのではない
かと憂慮しているという。
事実、シルバ前環境相は、利権が絡む開発や森林伐採、開拓などに対して強硬な姿勢を貫いてきた。政府内で進めてきたアマゾン地域でのダム開発にもシルバ氏は反対しており、妥協抜きで環境保護を優先する姿勢
は政府内でも衝突が多かったと伝えられる。
ルラ大統領は、アマゾン地域でのダム開発は、近年の経済成長で常にエネルギー不足に悩まされているブラジルにとっては欠かせないものととらえており、経済成長は同政権の支持基盤である貧困層への社会保障問
題や失業率改善などにも欠かせないものだ。
加えて、シルバ環境相辞任の背景には、ルラ大統領がアマゾンに関して環境保護と経済成長の両立を主張する姿勢があると伝えられる。そして、ルラ大統領のアマゾンをめぐる政策の背景には、昨年新設されたブラ
ジルの国家戦略担当省の存在がある。
ブラジル国家戦略省の長を務めるのは、元ハーバード大法学部教授のロベルト・マンガベイラ・アンガー氏だ。アンガー氏は、三年前にルラ政権を「ブラジル政治史の中で最も腐敗した政権」と切り捨てたことで知られ
るが、南米の政治状況と政策問題に明るく、ルラ大統領の肝いりでハーバード大の教授という位置から国家戦略省の新大臣に就任した。
アンガー氏は、英BBC放送などのインタビューに答えて「アマゾンを資本に任せて自由に開発させるべきだという考え方、また、完全な保護区として一切の開発を認めるべきではないという考え方、どちらもよくない」
と極端な意見を排除した上で、アマゾンを包括的なプログラムの中でとらえる必要があると主張する。
同相は、「二千七百万人が生活するアマゾン周辺経済の成長の芽を摘み取ることは、逆にアマゾン地域の乱開発につながる可能性もある」「長期的な展望に立った、持続可能な開発に向けた戦略構築と運用が欠かせ
ない」と説明、アマゾンの乱開発を招かないためにも、地域経済の復興が欠かせないとみている。
実際、アマゾン地域では労働人口の約七割が熱帯雨林の違法伐採に絡んだ収入で生計を立てているとの試算がある。違法伐採に頼らない地域経済の復興プラン抜きには、違法伐採の取り締まりだけでは森林保護は
成り立たないという考えだ。
シルバ環境相の辞任後、「ルラ大統領はアマゾンの開発を優先した」「アンガー戦略相はアマゾンの開発と保護に関しては素人にすぎない」など、アマゾン熱帯雨林保護の観点からルラ政権をめぐる批判は多い。
ルラ大統領が新たに任命したカルロス・ミンキ新環境相は、リオデジャネイロ州で環境保護に尽力したことで環境保護団体からも信頼を得ており、同相は、アマゾン保護のためにブラジル国軍を投入すべきだと十九日
に提案したばかりだ。しかし、うがった見方をすれば、同環境相を登用することで政権内のバランスと世論に配慮したものとも取れなくはない。
アンガー戦略相は、「持続可能な開発という言葉自体がまやかしだ」という批判に対して、「われわれは行動することで“それ”を現実のものとするしかない」と切り返す。その行動の成否は、「地球の肺」の未来に重くのし
掛かっている。