ID : 7537
公開日 : 2008年 5月 9日
タイトル
新月の木」伐採の普及活動 「山林荒廃の歯止め」に期待
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新聞名
毎日新聞
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元URL.
http://mainichi.jp/area/akita/genba/news/20080509ddlk05040002000c.html
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元urltop:
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写真:
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科学的根拠あいまいだが…
冬の新月直前に伐採した木は割れにくく、狂いにくい--。月の満ち欠けと結びつけた「新月伐採」について、八峰町を拠点に白神山地での植林などを通じて山の再生の取り組むNPO法人白神ネーチャー協会長の工藤
英美さん(71)が普及を目指し研究を進めている。科学的な根拠ははっきりしていないが、情熱を注ぐ背景には「山の荒廃に歯止めを掛け、林業再生の救世主にしたい」という危機感がある。【田村彦志】
◆独自に検証
国内で「新月の木」を広めているのは、04年に設立されたNPO法人「新月の木国際協会」(事務局・千葉県東金市)。増田正雄理事長が社長を務める出版社がオーストリアで製材業を営む新月伐採の提唱者エルヴェン
・トーマさんの本を翻訳出版し、これを機に普及活動が本格化した。
国際協会員に名を連ねる工藤さんは、地元協力者らとともに協会発足前からスギ間伐材で実験を重ねた。
工藤さんによると、01年11月下旬の満月と同年12月上旬の新月にそれぞれ伐採した木で17個ずつおわんを作製。満月の木は次々と割れるのに枝つきの新月の木は一つも割れないうえカビが生えず、虫もつきにく
いことが分かったという。
◆因果関係は?
県立大木材高度加工研究所の高田克彦教授(森林資源遺伝学)によると新月伐採法の特徴は、冬の新月直前に伐倒する▽伐倒時に木を谷側に倒す▽伐倒後、長く枝をつけたままで葉枯らしをする--の3点。
新月の木は割れにくい、腐りにくい、色がよいなどと強調されているが、科学的根拠ははっきりしない。
明確なのは、樹木の細胞の中にたまっているでんぷん質が葉枯らしをする中で消失すること。シロアリや菌の繁殖が困難となり、カビが生えにくくなる。ただそれが新月と関係があるのか分からない。
工藤さんは「潮の干満のように、月の引力が樹木の中の水の流れに影響を与えているのではないか」と推測。さらに「冬は樹木にたっぷりでんぷん質が蓄えられた状態であることは知られている。この時期に伐採して
枝葉をつけたまま湿気の多い雪の中でしばらく寝かせることで、でんぷん質がゆっくり分解され良質の木材になる」と強調する。
工藤さんは研究成果を今月25日、東京で開かれる協会の講演会で発表する。
◆期待と指摘
人手不足や山の荒廃で厳しい環境にある地元林業。関係者からは、慎重な見方とともに森林資源に関心が高まることへの期待も膨らむ。
白神森林組合(本所、能代市中川原)の細川和夫組合長は「新月の木については知られていないのが実態だが、木の特性を見極めながら伐採する方法には関心がある」と話す。
また全国規模で木の家づくりを推進するモクネット事業協同組合(能代市二ツ井町)の加藤長光理事長は「米代川流域ではかつて冬切りが盛んだった。新月伐採もその時期の範囲に入る」と説明。そのうえで「取り立てて
新月という時期を強調するのではなく、冬切りの必要性を奨励した方が生産と供給面から効果的だ」と指摘する。
新月伐採という言葉にはミステリアスな響きがあるが、木の特性を生かすため伐採時期や方法を科学的に研究するきっかけになっているのは確かなようだ。