ID : 4992
公開日 : 2007年 10月15日
タイトル
住友林業、DNAによる木材製品の個体識別技術を確立
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新聞名
日経プレスリリース
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元URL.
http://release.nikkei.co.jp/detail.cfm?relID=172588&lindID=4
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元urltop:
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写真:
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~ 世界初。木材製品の科学的なトレーサビリティ ~
DNAによる木材製品の識別技術を確立
住友林業株式会社(社長:矢野龍 本社:東京都千代田区丸の内1丁目8番1号)は、世界初となるDNAによる個体識別技術の完成により、人工林を構成する同一品種の苗、植林木、丸太や合板などの木材製品をトレー
スできる基礎技術を開発しましたのでお知らせします。
■技術開発の背景
地球温暖化問題。この地球規模での環境問題に対して、社会的にも大きな関心事となっています。
そのような中、この温暖化の抑制策としてCO2を吸収・固定する森林機能の重要性が高まっています。
また、地球上から年々消失する森林の中で、生態系に大きな影響を与えるとされる天然林を保護する上でも、今後の木材資源は、人工林、すなわち地域に適した樹種、そしてその優良品種を植え、伐り、植えることを
持続的に行う森林から調達されることが主流になると思われます。
このような状況の下、住友林業では、以前から植林木を中心とした合法的な木材を積極的に取り扱ってきましたが、近年の天然林の保護や違法伐採の抑止といった観点から、グローバルな規模で森林認証制度への取
組みを中心に、合法木材の利用を促進する機運が高まっていました。
ただ、木材の合法性確認は、その基本となる生産地証明において統一した規格等がなく、各地域で異なる証明方法が行われていることから、結局人間の目による確認に頼らざるを得ず、伐採現場から搬出される丸太
から集成材、合板、LVL等の木材製品までのトレースが精度面、技術面、コスト面で問題を抱えておりました。
そこで住友林業では2003年より、自社筑波研究所にて木の生産者から最終消費者までの合法的な履歴、すなわち木のトレーサビリティを科学的に証明する方法の開発に着手。この度、DNA個体識別技術を用いて丸
太や合板などの木材製品の個体を識別し、トレースを科学的に立証する基礎技術の開発に世界で初めて成功しました。
■本技術(マイクロサテライト(SSR)マーカーによる木材製品の個体識別)について
本技術は複数の同一品種から構成され、且つ持続的管理を実施していると確認された人工林から出材された木材、またそれから加工された木材製品であることを科学的、客観的に証明できます。
画期的な点として、人工林を構成する植林木についてはこれまでは、葉や丸太、板までしか識別出来なかったものが、今回、苗から成木、その丸太から出来た合板等の木材加工品まで全ての段階でチェックが可能であ
り、トータルでの識別が可能であり、これにより山元から最終消費者までのトレース精度が飛躍的に高まります。
さらに品質管理技術としての利用も期待できます。材質の良い優良な品種だけで造林を行い、高品質の製品を提供するためには、原料の混入を避けなければなりません。その点、本技術を利用して抜き打ち検査を行
えば、各段階で他の品種が混入を確認することができ、早い段階で品質低下を防ぐことができます。
また、その識別方法は装置等の識別環境が整っていれば安易であり、識別期間も短く、費用面も安価であることから、広く利用されることが見込まれます。
住友林業は過去より材質の優良な樹種の育種、名木・貴重木のクローン増殖、世界各地域での植林活動などを行ってきましたが、今後は従来の実績を活かしつつ、優良樹種の開発・植林事業・科学な合法性証明を一体
としたビジネス展開を予定しています。
■識別手法
DNAは、遺伝情報を記憶している鎖状の物質で、デオキシリボ核酸という核酸の一種であり、生き物の体をつくる設計図(遺伝子の本体)です。DNAには、生物それぞれの個体の持つ様々な性質に関係する基本情報が
記録されております。マイクロサテライトとは、ゲノムDNA上の同じ構造を持つ部分が2~5対繰り返し並んでいる部分です。マイクロサテライトのほとんどは遺伝情報を持ちませんが、生物の個体間で繰り返し回数の違
いが生じやすい特徴があるため、個体識別に利用可能です。今回、この部分の長さの違いを利用して、合板の識別が可能となりました。
■合板・集成材の識別が可能な樹種
熱帯での代表的な植林木であるファルカタ、グメリナ、国内での主要植林木である杉、ヒノキ、オセアニア、南米での代表的な植林木であるラジアタパインなど。今後も対応樹種を拡大していきます。
■マイクロサテライト(SSR)マーカーによる木材製品の個体識別
(1)識別の原理
マイクロサテライトまたはSSR(Simple Sequence Repeat)とも呼ばれ、DNA上の塩基の配列中に、同じ構造を持つ部分が2~5対繰り返し並んでいる部分を目印として、その長さの違いを利用して個体識別を行
う鑑定方法。ヒトの親子鑑定や、犯罪捜査にも利用されている。
(2)SSRマーカーによる個体識別方法
1)DNAの抽出
合板をやすりなどで粉砕し、DNAを抽出する。
2)PCR(Polymerase Chain Reaction)反応により、抽出したDNAを増幅させる。
抽出したDNAに合成酵素(DNAポリメラーゼ)とプライマー(DNA合成の時に開始のきっかけとなる短いDNA)、材料となる基質を加え、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)によりDNAを増殖させる。
3)増幅したDNAを解析し、DNAの長さを検出する。
増幅したDNA断片を、DNAシークエンサーで解析し、DNAの長さを測定する。
4)個体の識別
個体ごとの断片長を遺伝子型とし、全て一致したものを探し、原料となった丸太を特定する。