ID : 4983
公開日 : 2007年 10月13日
タイトル
天然林の破壊現場を歩く(3・終)山を壊す皆伐
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新聞名
JanJan
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元URL.
http://www.news.janjan.jp/area/0710/0710103714/1.php
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元urltop:
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写真:
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視察3日目に訪れたのは、大雪山国立公園の第三種特別地域で風倒木処理として行われた皆伐現場である。驚くべきことに、国立公園の特別地域といっても第三種は伐採率の制限はない。伐採には環境省と
の協議が必要なだけだ。しかも、風倒木処理の場合は、環境省との協議も必要ないという。
午前中は、糠平湖の北岸に流入するタウシュベツ川林道に向かった。終点の土場に車を止めて作業道を歩いていくと、何とその作業道は沢に砂利を敷き詰めたとんでもない道であることに気づいた。もともとの沢は作
業道によって流路を変えられ、道の脇に細々と流れている。大雨が降ったら、すぐに流されてしまうような道だ。
表土が剥ぎ取られたタウシュベツの皆伐現場。復元不能と思われる。
まもなく目前に現れた凄まじい光景に、一行は呆然と立ち尽くした。山肌一面が皆伐され、土がむき出しになっているのだ。風倒木が発生したといっても、斜面に生えている木がすべて倒れるということはまずない。残っ
ていた立木も伐り、完全な裸地にしてしまったのである。その長さは約600m、幅は平均200mほどであろうか。
この光景を見たら、誰もがおかしいと思うに違いない。斜度のきつい山肌をこのように壊してしまったら、大雨のたびに崩壊することは誰の目にも明らかだ。これは伐採などという代物ではない。山そのものの破壊であ
る。たとえ周囲から樹木の種子が飛んできても、雨に流されて根付くことはないだろう。もはや復元不能状態である。そして雨が降るたびに大量の土砂がすぐ下流の糠平湖に流入するのだ。そもそもここは国立公園の保
安林だ。私たちの怒りは、この日頂点に達した。
午後は、幌加地区の皆伐現場で、管轄の十勝西部森林管理署東大雪支署長らの説明を受けた。ここも先に見たタウシュベツの皆伐地と同じくらいの面積がありそうだ。ここは平成16年9月の台風18号による風倒被害
地だという。支署長の説明では、風倒木を放置すると害虫が発生するから、皆伐して植林をしたほうが良いとの判断をしたという。
ところが、この現場のすぐ隣の皆伐地を見て驚いた。そこには価値がないと判断して放置した材の残骸が山となって放置されていたのである。害虫の発生が懸念されるのであれば、このような材をどうして処理しない
のだろうか?
沢を砂利で埋めてつくられた作業道。
ここの皆伐地については、地元の十勝自然保護協会が生物多様性保護の観点から東大雪支署に質問書を送付していた。支署長からの回答が的確な答えになっていないために、再度質問書を送付したのだが、それに
は返事は来ていない。回答しないのかと問うと、あっさりと「回答するつもりはない」という。
説明を受ける私たちの近くを、絶滅危惧種のクマゲラが鳴きながら飛んでいった。このあたり一帯は、ミユビゲラ、キンメフクロウなどの絶滅危惧種の生息地だったのである。
大雪山国立公園は、昭和29年の洞爺丸台風で大量の風倒木が発生した。その風倒木処理を契機に奥地まで林道が張り巡らされ、延々と天然林の伐採が続けられてきた。ミユビゲラやキンメフクロウの棲んでいた森は
、ことごとく破壊されたのである。
林野庁は「老齢加熟木を伐って若木を育てる」と説明し「生長した量だけを伐るから森林の蓄積量は変わらない」とうそぶいて、天然林からの収奪を続けてきたのである。度重なる伐採で、近年では建材となるような価
値のある木が底をついてきているのだ。国道沿いは第二種特別地域に指定して伐採を制限しているものの、国道から少し入れば細い木ばかりの森林が広がっている。林野庁は伐る木がなくなった挙句、山を壊す皆伐の
暴挙にでたのである。
そもそも、日本は森林の国だ。人が伐採を始める以前にも大きな台風被害を幾度となく受けてきたに違いないが、そうした台風の爪あとも、自然の力で復元されてきたのだ。倒れた木はやがて周囲から飛んできた種子
の苗床となり、後継樹を育ててきたのである。風倒木処理の名目で材を運び出すのは、価値のある材をお金に換えたいだけだろう。しかし、そのために国民の財産である国有林を、重機で復元不能なまでにズタズタに
壊すことが許されるのだろうか?
利用できない大量の材を放置してある、幌加の皆伐現場。
翌5日には、今回の視察を踏まえて札幌の北海道森林管理局に申入れを行ったが、「木材の有効利用」を掲げて風倒木の処理を正当化する見解に愕然とした。責任者として現場に出向き、早急に適切な対応をして欲し
いものだ。
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森が壊れれば川が壊れる、そして海にも影響が及ぶのである。森を壊すことは国を滅ぼすことにつながっていく。悠久の歴史の中で育まれてきた天然林を子孫に残していくのは、今を生きる私たちの責任だ