イチジク 果実泥棒のかゆい体験
「この木の実を採って食べてはいけないぞ」
仲良しだった隣の家のY君と遊んでいると、学校の先生をしていて、
近所でも一目置かれている彼の父親が出てきて言った。
「うん、わかった。食べたりしないよ」 声を揃えて答えたものの、その姿
が消えるやいなや、ふたりでムシャムシャ食べはじめていた。こんなに
おいしい実をどうして食べちゃいけないんだろう?――エデンの園のア
ダムとイブは、禁断の果実を食べた。そして、イチジクの葉っぱで裸を
隠した。いわば世界最初の衣服なのだ。
イチジクの汁で口のまわりを紫色に染め、私とY君はそのかゆさに七
転八倒しながら笑いあった。イチジクの葉っぱは愉快そうにほくそえん
で見ていた。 |
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