ID : 4797
公開日 : 2007年 9月24日
タイトル
季節の終わりはラオスに行って、虫を採ろう .
新聞名
日経ビジネス
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元URL.
http://business.nikkeibp.co.jp/article/life/20070920/135470/
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元urltop:
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写真:
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さて、これからどこを探そうか。クチブトゾウがどこにいるか、やっと目鼻がついた。ともあれ砂地狙いである。 三日目はパクセの街から、ボラヴェン高原へ。ここはラオスの南端に当たり、標高千二百メートルくらいの広い台地である。でも砂地が少なく、なかなかいい場所がない。標高が高いから涼しく、住みやすいから、農家が稠密にあって、コーヒー林がほとんどを占めている。おかげで自然林が少ない。 車は一台、同行者は四人、私と若原君、若原君の奥さんのソンさんと、ソンさんの弟さん。この人が運転手。若原君の薫陶よろしく、全員が網を振り回して、虫を採る。目のつけどころが違うから、ソンさんと弟さんは、妙なものを採ってくる。弟さんの採集品には、大きなカミキリムシとか、小さいノコギリクワガタが入っている。小さいノコギリクワガタは、大きいのとは別種で、なかなか珍品である。私には不要だけれど、お土産にもって帰ることにする。 最初に行ったのは、なんとかいう滝である。いちおう観光地ということで、舗装してない駐車場と、周囲に茶店がある。茶店ではランを売っている。このあたりに自生する自然のランだが、じつはこの商売も今日を限りだという。記念すべき日に来たわけである。本日以降は、栽培種のランしか、売ってはいけないことになるそうである。 とはいえ、客はいない。本当に私たちしかいないのである。おそらくこのあたりはタイからの観光客が来るのだと思うが、タイからラオスに来ても、単に田舎に来ただけだと思う人が多いはずである。タイがさらに経済発展をして、田舎がなくなれば別だが、そうなると今度は、タイ人がアフリカに観光に行ったり、ヨーロッパに行ったりするであろう。虫屋としては、いつまでも発展しない観光地であって欲しい。ボチボチ食えればいいではないか。よそ者は、すぐにそういう無責任なことを考える。 滝なんか、見る気はない。裏のコーヒー林に入って虫を探す。でも、なかなかいい場所に当たらない。コーヒー林は間に自然の木が混ざっている。ランもコーヒーの木にはすぐに付着する。若原君にそう教わった。若原君は虫だけでなく、ランにも詳しい。 自然木を残したこういう植林は、保護の観点からは望ましいと思うが、やっぱり植林は植林である。虫は少ない。このあたりの林は、自然林に見えても、入ってみると、古いコーヒー畑だったり、茶畑だったりする。 滝の場所を離れて、ボロヴェン高原を走っていくうちに、若原君が車中からアベマキの小さな林を見つけた。家畜よけの柵で囲んである農家の裏にある。裏へ抜けるのに、家の人に断って入るが、子どもしかいない。採集が終わってから、お礼にアメ玉を渡す。 農家の柵を越えて、後ろの柵をさらに越えたら、アベマキ幼木の純林でした。そばに川があって、砂地と岩。 アベマキを叩いてみると、いるは、いるは。小さなクチブトゾウムシがたくさん落ちてくる。全部が同種かどうか、調べてみないとわからない。帰国して確認したら、二種類ついていた。 三月に中部ラオスで、はるかに立派なアベマキの林を探したときには、一頭も採れなかった。これが虫の困ったところである。いるのか、いないのか、はっきりしろ。そういいたくなる。もっとも地面が赤土だったかどうか、記憶していない。当時はそういうところに関心がなかったから、覚えていないのである。 この林は、ごく近くを小川が流れている。地面は砂である。クチブトの生息場所の基本ルールに、とりあえず適合している。結局この日は、あとはシイ・カシ類で別な種をわずかに採っただけ。 帰り際に、足に血がついているのを発見。ヒルである。なぜか私はヒルに好かれる。何人かで採集に行くと、私だけが食われることが多い。私のほうはヒルは大嫌いだが、ヒルが勝手に私を好きだという。ヒルの片思い。 行儀は悪いが、路上でズボンを脱いで確かめたら、食痕が七つあり、ヒルが五匹出てきた。ヒルの研究なら、材料に困らないのに。ズボンも靴下も血だらけ。パクセのホテルに戻ってから、靴下を洗ったら、全体が赤くなってしまった。血染めの靴下である。
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