ID : 4409
公開日 : 2007年 8月 5日
タイトル
北京夏天 あと1年 緑の五輪 花咲かせ雨雲消し、悪評払拭 .
新聞名
産経新聞
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元URL.
http://www.sankei.co.jp/sports/sports/070805/spt070805000.htm
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写真:
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8月に入って、北京は雨が続いている。この時期、空気は例年、湿り気を増し、最高気温は40度に達することもある。蒸し暑さが澱(よど)む灰色の町-。そんな負のイメージを覆い隠すため、五輪に向け、あるプロジェクトが進められていた。 北京市園林緑化局に植物学に通じた人材が集められたのは4年前、2003年のこと。50万人とも見込まれる人々が世界中から訪れる来年の北京五輪期間中、首都を極彩色の花で飾るためだ。 研究者を動員したのには理由がある。「春と秋には多くの花が咲き誇る。しかし8月は極めて少ない」。6月末の記者会見で同局の廉国●(●=判の半を金に)・都市緑化部長が語った。この季節、北京で開花する花はわずか十数種。1年で最も少ない。北京の酷暑と汚れた空気に耐えうる品種を作り出さなければ…。 中国国内はもとより日本や米国など諸外国からかき集めた花は400種以上に上った。それらに交雑育種を施した結果、通常夏には咲かない約80種の品種改良に成功したという。中国国営新華社通信によると、その中には紫色のハスや銀灰色の菊などが含まれている。 ◇ 北京五輪組織委員会は3つの大会理念を掲げる。「人文五輪」「科学技術五輪」そして組織委を悩ませる「緑の五輪」。環境に配慮した五輪である。 今年6月、北京を訪れた日本メディアの視察団に対し、組織委の劉敬民・執行副会長が語った。「環境保全は五輪の準備だけでなく、北京の発展、国家の発展にとって重要だ。五輪を一つのきっかけにして中国の発展モデルを変えられたら、と期待している」 なるほど、五輪開催が決まってから北京の緑化作業は加速した。招致段階の00年には41.9%だった緑化率が、05年には50.5%に達したという。劉氏は、昨年1年間で287万本の木が植樹されたと主張する。 大気汚染の元凶とされた鉄鋼会社、石炭ガス会社の工場も北京市の外に移転させた。自動車の排ガス規制も強化した。空気の質が「よい」とされる日は、ここ10年で年間100日から240日に増加したとされる。 もっとも、英国やオーストラリアの選手団が、大気汚染対策としてギリギリまで北京入りを遅らせる方針を示しているように、誰も中国側の言葉を鵜呑(うの)みにはしていない。 ◇ 7月中旬、開閉会式会場の国家体育場(愛称・鳥の巣)など競技施設を視察した中国の温家宝首相は「五輪施設の建設においては水1滴、わずかな電気も節約しなければならない」と述べ、環境への配慮を強調した。 しかし環境対策は経済成長に影響を与えないレベルで、とするのが胡錦濤国家主席のスタンス。効果が疑わしい環境保全策よりも、自然に挑む姿勢の方が印象に残る。 人間の手を加え、制御しようという試みは品種改良にとどまらない。雲にロケット弾を撃ち込んで雨を降らせる技術しかり。式典や競技を妨げる雨雲は、この技術で消滅させるという。五輪期間中は競技施設周辺や主要幹線道路などは3000万鉢の花で彩られる。 品種改良に携わる園芸研究者がフランス通信に明かした。「ほとんど毎日、役人から『できるのか?』『大丈夫なのか?』と尋ねる電話を受けている」。自然への挑戦には、悪評を押さえ込みたい中国のメンツと焦りが透けてみえる。 ◇ 北京夏季五輪まで8日であと1年。アジアでは3番目となるスポーツの祭典に向けて、北京では、準備の真っ最中。しかし、その陰で、トラブルも絶えない。その「光と影」を追った。 ◇ 《メモ》中国の環境汚染 オランダの政府系研究機関「MNP」によると、2006年の中国の二酸化炭素の排出量は約62億トンとなり、米国(約58億トン)を抜いてワースト1になった。
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