県内で2006年に有害捕獲されたツキノワグマは241頭。これまで最高だった01年の142頭を99頭も上回った。このうち放獣は22頭にとどまり、捕殺は219頭に上った。
県は昨年、新しい推計方法を用い、県内の推定生息頭数を06年当初の810頭から大きく上方修正して1720頭とした。捕殺された割合はこの12・7%に当たり、生態系への影響が心配される。
そこで、種の保存と、人里への出没防止を同時に図る方策として広まっているのが「放獣」だ。わなにかかったクマを音で脅かしたり、トウガラシ入りスプレーをかけるなど二度と里へ出てこないようしつけた上で、山に帰す方法が主流。
本県では県が定めるマニュアルに沿って行われている。戻ってこないよう捕獲場所から12キロ以上離れ、半径4キロ以内に人の往来する施設がないなどの条件で放すことになるが、そのような場所は意外と少ない。
こうしたなか、放獣場所として注目されるのが県内の全森林の約3分の1を占め、登山道が少ない国有林。昨年度、県内で2番目に有害捕獲が多かった北上地域は7割以上が国有林。ツキノワグマ保護管理検討委員会でもたびたび話題になるなど、これまで各方面からの要請があるが、林野庁側は許可を出さない。
東北森林管理局の江坂文寿計画課長は「国有林内で働く人の安全を守らなければいけない。今の放獣は発信器を付けているわけではなく、安全管理上の合意形成を図らなければ難しい」との立場を強調する。
「現段階では効果測定が難しく、放獣できる人材も不足している」と、クマの生態を研究する岩手大農学部の青井俊樹教授も認めるが、「放獣はクマと人間が共存する方策の一つ。適した場所の多くは国有林だ」と指摘している。