ID : 3669
公開日 : 2007年 4月30日
タイトル
緑の季節に 森と人が共に生きる道を .
新聞名
信濃毎日新聞
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元URL.
http://www.shinmai.co.jp/news/20070430/KT070428ETI090003000022.htm
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元urltop:
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写真:
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新緑がまばゆい季節である。5月4日の「みどりの日」を中心に、長野県内でも緑に関したさまざまなイベントが展開される。 森には、人をリラックスさせ、癒やす力がある。「森林セラピー(療法)基地」が、県内でも木曽郡上松町、飯山市、佐久市など何カ所もできている。 基地を訪れるのもいいし、自宅近くの山を歩くのもいい。緑に親しみつつ、人間にとって森の存在の意味を見つめてみたい。 <もっと植林しよう> 2004年のノーベル平和賞受賞者は、ケニアの女性環境活動家ワンガリ・マータイさんだった。植林・緑化活動を通じてアフリカ女性の地位向上に尽力したことが評価された。アフリカ各国で多くの女性が参加して3000万本を植えている。 アフリカで砂漠化が深刻になっていることの表れでもある。森林伐採や過度の放牧のほか、地球温暖化が原因に挙げられる。 中国でも砂漠化が進んでいる。砂漠面積は国土の18%、半砂漠化した荒れ地を含めると、45%にも達する。特に内モンゴル自治区の砂漠化が著しい。 砂漠から日本にまで飛んでくる黄砂の被害は、中国では格段に大きい。中国政府は、2008年の北京五輪に向け、黄砂を防ぐための植林を北京周辺で繰り広げている。 中国の緑化には、日本も積極的に力を貸すことが大切だ。既に長野県内からも、内モンゴルなどへボランティアが植林に行っている。こうした支援の輪を広げたい。 地球温暖化を防ぐには、大気中の二酸化炭素など温室効果ガスを減らす必要がある。排出量そのものの削減がまず大切だ。 二酸化炭素を吸収してくれる森林を増やすことも、欠かせない。木を植えることは、温暖化、砂漠化を食い止めるために、誰もができる取り組みの一つである。 <防災のためにも> 日本の緑の現状に目を向けると、アフリカや中国のような砂漠化は見られないけれども、森林の質が問題となっている。 昨年7月に県内を襲った豪雨災害が、端的に物語る。 この災害を受けて県が設置した「森林の土砂災害防止機能に関する委員会」は、検討のモデルとした岡谷市の土石流について、流下しながら土砂を浸食し、樹木を巻き込んだのが特徴と分析した。 これを踏まえ、地面の崩壊を防ぐ役割を持つ樹木の根を発達させるため、間伐を推進することを求めた。さらに、カラマツなどを一律に植えた山林が多いことも考慮し、広葉樹など渓流沿いの環境に適した樹種への転換の必要性も訴えている。 信大農学部の特任教授、山寺喜成さんも、防災機能が高い森林造成を提唱している。実生木・播種(はしゅ)木と植栽木の根の違いに注目した。実生・播種木では太い直根が地中深く伸び、水平根がネット構造を作るため、山地保全力が高い。植栽木は、根の張り方が弱い。 山寺さんは、直根を発達させる造林方法として「保育ブロック工法」を考案した。中国の荒廃地でも実証実験をしてきた。土や肥料などを固めて穴を開け、植物の種が根を張りやすくしたブロックだ。これを地中に埋める。こうして育った樹木は、ポット苗に比べて、太い直根や長い水平根がよく伸びるという。 災害にも強い森が、本物の森といえるだろう。どんな樹種にするかや、苗の育て方、間伐の進め方など研究を深め、地域に適した方法で実践するときにきている。 林業の現状も厳しい。日本の森で育った木が使われてこそ、林業も元気が出る。輸入材に押されて苦しい状況が続いている。 そんな中でも、いろいろな取り組みがある。杉、カラマツ、ヒノキなど県産材を使った家造りをするグループが各地にできている。 <足元の良さ見つめて> 「伊那谷の森で家をつくる会」は建築士や林業者が中心になって発足した。間伐、製材、建築という流れを飯田下伊那を中心とする地域内で完結する仕組みを探り、地域材で住宅の建築を進めている。 新築で県産材を50%以上使った場合の県の助成制度もできている。県産材を使う機運を高めたい。 住宅以外では、例えば木曽郡大桑村は、地元のヒノキを使って三味線やホルンを作り、県内外から参加した人たちとの交流を深めている。 木曽青峰高校では、「ヒノキうちわ」などヒノキの皮や小枝の新たな活用方法を探っている。工夫すれば多様な道が開ける。 政府が新たに取り組む「美しい森林づくり」推進国民運動の展開も注目される。2012年までの6年間で森林330万ヘクタールの間伐を実施する目標などを盛り込んでいる。 木材利用を通じた循環社会の構築、地域の森林整備の担い手づくり、都市住民などが参画する森林づくりへの取り組みも掲げた。 どれも大切だ。掛け声だけに終わらせぬ実行力が問われる。 森は、見栄えが美しいだけでは、防災機能を発揮できない。そこに生きる動物や、恩恵を受ける人間にとって本当にいい森とはなにかも、じっくり考えてみたい。
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