日本は「木の文化の国」という“ウソ”
多様な木材利用も多様な森づくりにも、永遠に到達できない
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新聞名
日経ビジネス
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元URL.
http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20100408/213892/?P=1
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日本は「木の国」「木の文化」と言われ、誰もがそう信じてきた。全国各地に存在する神社仏閣や古民家などの木造建築は、世界にも類を見ない文化遺産であり、まさに日本の木の文化の象徴そのものである。これに対し欧州では基本的に歴史的建造物は石造りであり、日本と対比させれば、石の文化ということができるだろう。
これはいわば一般に言われている常識ともされているものだが、常識が必ずしも真実というわけではない――。
途切れた日本の木の文化
日本の過去は確かに木の文化だったと言えるが、果たしてそれが現代にも継承されているかどうかは別問題である。
日本で木の文化を強調する時に必ず引用されるのが、住宅の木造比率が高いことだろう。実際、住宅の木造比率は4割を超え、戸建てに限ればその比率はさらに高まるはずである。しかし、このことがそのまま、日本が木の文化を継承し、それを現代に活かしているということにはならない。
そもそも、日本の住宅の平均寿命は30年に過ぎず、このような木の使い方と、数百年も続く建造物を作ってきた伝統的な木の文化とを同列に置くことはできない。また、最近では伝統的な木造工法とは言いながら、木質ボードで壁を張って柱を隠す大壁工法の普及によって、木の家を直接感じることができる家が少なくなっている。
日本では、戦後、森づくり・木材利用ともに単純化しており、木の文化はむしろ衰退してしまったのではないだろうか。
家庭で、オフィスで、実感できる木の利用
これに対し、ドイツでは木造住宅比率こそ2割前後にとどまるものの、コンクリートやレンガ造りなどとの違いを図るためもあり、木造であることを生活の中で常に感じることができる作りになっている。構造材も太く、かつふんだんに使った作りであるうえ、これを見せるような工法とすることで常に木を感じることができるわけだ。
頑丈な作りということはまた、何世代にも受け継がれる家でもあるということでもある。この世代を超えて受け継がれることこそ、歴史となり、文化となっていくものだ。
欧州では全般に木の利用が日常生活に根づいており、その利用も高度化・多様化している。石造り・レンガ造りの家であっても、屋根の部分は木造であり、いわゆる屋根裏部屋は総木造と言ってもいいほど木造住宅そのものである。
木の利用は構造材にとどまるものではない。家具、壁やフローリングなどの内装材、窓枠など多様である。多様な木材利用があってはじめて、人々は日々の暮らしの中で木の良さを感じることができるのであり、多様な木材利用は、木の文化を育むベースとなるものである。
木材をふんだんに使ったドイツの木造住宅
ドイツではまた、オフィスにおいても、家具や内装などに木を多用し、オフィスの知的生産性を高めるよう高度な木材利用を進めている。日本のオフィスが机や引き出しなどの家具のみならず、壁などもスチールでできているのとは対照的である。
さらに、近年では木材需要の拡大を図るべく、集合住宅やオフィスビルまでも木造となるなど、ドイツにおいて、木の文化はますます熟成してきていると言えるだろう。
環境に貢献する木の使い方
世代を超えて使い続けることができる頑丈な木造住宅はまた、CO2(二酸化炭素)を何世代にもわたり固定するなど、森林資源を有効に活用するのみならず、環境にも大きく貢献する。
頑丈な家は柱も太く、壁も厚いということであり、その分、断熱性能を高め、省エネルギー化することによって、家庭部門のCO2削減に大きな効果を発揮する。
断熱性能が高いということはまた、家の中どこにいても温度が一定ということであり、快適な住環境を提供してくれるとともに、木を感じることのできる家づくりと相まって、生活の質の向上にも直結するものである。
こうした住宅の断熱化に欠かせないのが、木製サッシである。いくら壁の断熱性能を高めても、開口部である窓の断熱性能が低ければ、そこから熱が逃げる、ないしは入ってきてしまう。従って、窓ガラスが複層ガラスであることは当然として、サッシも木製であれば、断熱性能をより高めることができる。
実際、ドイツでは木造住宅と木製サッシとの組み合わせによって、断熱性能の強化と「木の家」の雰囲気をうまく醸し出しており、木の良さ、ありがたさを日々の暮らしで実感できるのである。
このような木の使い方は、従来の日本の木の文化とは違うかもしれない。しかしながら、文化とは時代とともに変容を遂げ、発展していくものである。環境的側面から森林に対する期待が高まる中、日本もこのような木の新しい使い方を提案していくべき時に来ていると言えるだろう。
木材利用の原則は「太らせて使う」
では、なぜドイツでは太い構造材や内装、家具、サッシなど多様な木材利用が可能なのか。このために不可欠なのが、木が一定の太さ以上であることだ。内装や家具に使うには節が少なく、見栄えのいい木が必要だが、木は太くなればなるほど節が少なくなり、質感も向上する。
特にサッシ用の材については、節があると機密性が損なわれ、断熱効果を発揮できなくなってしまうことから、素材である木は無節であることが前提である。このため、ムクのサッシを作るには、大径材であることが前提となる。
また、柱や、梁(はり)、桁(けた)などの構造材として使うにも、木が一定以上に太いことが必要である。木は、芯の部分とそれ以外では材の柔らかさや含水率が異なることから、芯を中心にした製材では、木が乾燥する過程で、ひびやそり、割れなどの狂いが出やすい。
このため、ドイツでは構造材として使う場合、芯の真ん中か、芯を外して製材する芯去り材、もしくは芯割材として製材するのが一般的である。
こうした木の利用は当然のことながら、木が太くないとできない利用方法である。
ところが、森林が若く、細い木しか出てこない日本では、芯を中心にして製材する芯持ち製材がほとんどである。このため、製材品は狂いが生じやすいが、それでも昔は、棟梁が1年がかりで家を造っていたので、建築する過程で自然に生じる割れやひび、寸法の狂いなどをその場で調整することができたので、問題が生じることはなかった。