ID : 15110
公開日 : 2010年 2月23日
タイトル
始まったJ-VERの活用 森林のCO2吸収量をクレジット化
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新聞名
nikkei BPnet
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元URL.
http://eco.nikkeibp.co.jp/article/special/20100217/103224/?P=1
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元urltop:
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写真:
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日本の温暖化対策を進めようと、J-VER(オフセット・クレジット)制度を使って森を守る仕組みが注目されている。山村再生支援センターが開いた第2回山村きぎょうセミナーから、森林のCO2吸収機能を生かしたJ-VERの制度化に取り組んできた日本大学大学院の小林紀之教授の講演を紹介する。
森林の力生かすJ-VER制度が登場
日本大学大学院 小林紀之教授 京都議定書の、目標達成には、国や自治体だけでなく、事業者、国民それぞれが、温室効果ガスの削減に取り組むことが必要だ。
そんな中で「カーボン・オフセット(炭素排出の相殺)」は、義務ではなく自主的な温暖化対策として、国民の取り組みを促進する効果が期待されている。
カーボン・オフセットとは具体的にはこうだ。まず、対象となる活動の温室効果ガス排出量を可視化(見える化)して把握する。そして、温暖化問題は“ひとごと”ではなく“自分ごと”であると認識して、まずは省エネなどを通じて排出量の削減に努める。その上で、努力しても削減が難しい排出量をオフセット(相殺)する。つまり、他者が生み出した排出削減量、吸収量を購入したり、ほかの場所で削減・吸収プロジェクトを実施することにより相殺するわけだ。
「排出はコストである」という新しい認識を、経済社会に組み込み、日本が目指す低炭素社会のバックボーンを形成することが、カーボン・オフセットの意義でもある。
2008年11月には、政府が「オフセット・クレジット(J-VER)制度)」を創設した。同時期に政府が始めた「国内クレジット制度」では森林によるCO2吸収は対象外だが、J-VER制度は森林によるCO2吸収量も対象としているのが特徴だ。
森林から生まれるクレジットには、森林吸収量と木質バイオマス(生物資源)の石油代替利用による排出削減量があり、これを使ってカーボン・オフセットすることにより、植林・間伐などの森林整備や木質バイオマスの有効利用などに、クレジット代金として誰もが貢献できるわけだ。また、企業側は、商品にオフセットしたことを示すラベルを張って「環境配慮型製品」として販売促進に利用したり、イベント開催にあたりオフセットしていることを告知することなどによって企業イメージの向上に役立てられる。国がカーボン・オフセットの信頼性確保に注力カーボン・オフセットの普及が進んだ英国では、削減量の算定方法のあいまいさが指摘されるなど、その信頼性が疑問視されるケースも出てきていた。その事態を踏まえ、政府はカーボン・オフセットを改めて定義し、指針を作ることで信頼性の確保に力を入れている。
この一環として、国内における排出削減・吸収クレジットの信頼性を確保するため、環境省が開始したのが「J-VER制度」である。その仕組みはこうだ。J-VER制度に申請できるのは環境省が定めた「ポジティブリスト」に沿って進められるプロジェクトに限られる。ポジティブリストとは、J-VER制度が対象とするプロジェクトの種類や基準をまとめたリストのことだ。この基準を満たし、J-VER制度がなければ成り立たない事業であることを立証する必要がある。森林経営活動の場合は、吸収量の永続性の確保のため、森林施業計画の策定に加え、転用が計画されていないことなども必須の条件となっている。
J-VER制度にはプロジェクト実施事業者と、カーボン・オフセットを行う事業者に加え、認証運営委員会と検証機関がかかわる。「気候変動対策認証センター」に事務局を置く認証運営委員会は、運営・管理を担う最も重要な組織で、申請されたプロジェクトは、同センターと委員会の厳しい審査を経て登録される。その後、事業者がプロジェクトを実施して、削減量や吸収量のモニタリングが行われる。その結果を第三者検証機関が検証し、認証運営委員会が公式に認証して初めて、J-VERが発行される仕組みだ。J-VER制度は、将来国際的にも認められる制度を目指して、国連のCDM(クリーン開発メカニズム)を参考とした厳しい審査・検証体制を整えている。
また、現在検討中の「プログラム認証制度」が導入されれば、今後は自治体や、各地の森林組合を束ねる全国森林組合連合会などでも、J-VERを発行できるようになる見通しだ。
ただ、J-VERはあくまで、カーボン・オフセットという自主的な排出量の相殺が目的である。産業界が取り組む「自主行動計画」における業界の目標や、現在政府で行われている試行的な国内排出量取引制度である「試行排出量取引スキーム」における企業の目標達成には使えない。この点が「国内クレジット」やCDMなどの「京都クレジット」とは異なる点だ。J-VERの「VER」とは、「Verified(認証された) Emission Reduction(排出削減量)」の略ではあるが、「V」は「Voluntary(任意の)」の「V」と考えてもわかりやすいかもしれない。山村生かすJ-VER制度の活用で温暖化対策の目標達成を
自主行動計画や試行排出量取引スキームの目標達成には利用できないものの、いくつかの自治体では既に企業に対する削減義務が制度化されており、目標達成のために森林吸収量を繰り入れることが認められている。企業は用途に応じてJ-VERを活用するとよさそうだ。
森林を使ったカーボン・オフセットは、企業だけでなく山村にもメリットがもたらされる。J-VERの売却収入が森林経営に充てられ、産業や雇用が生まれる。それは地域の持続可能な発展と新たな環境創出にもつながるだろう。
以前から、森林の育成や保護、管理を通じてカーボン・オフセットしようとの取り組みがCSR(企業の社会的責任)活動に取り組む企業や、NPO(非営利組織)、森林組合、自治体単位で進められてきた。
J-VER制度は当初、森林吸収源を活用するプロジェクトは申請できなかったが、2009年3月、ポジティブリストに「吸収源」が追加され、間伐を促進したり、持続可能な森林経営を促進する「森林経営プロジェクト」と、「植林プロジェクト」が新たにJ-VERプロジェクトとして認められるようになった。
2009年7月1日には、間伐促進型のプロジェクトとして、北海道の4町によるプロジェクトと、高知県でのプロジェクト、住友林業の社有林におけるプロジェクトが初めての登録を果たした。
一方、木を木質バイオマス(生物資源)燃料として活用する事業も進められている。高知県が進める木質バイオマスへの燃料転換プロジェクトが、J-VERの第1号プロジェクトとして登録済みだ。このJ-VERの一部は、首都圏で駅ビルやショッピングセンターを運営するルミネ(東京都新宿区)が買い取った。現在、木質ペレットへの燃料転換もJ-VERプロジェクトとして認める方向で検討が進んでいる(編集注:2009年9月9日に追加された)。
これまでは、吸収源として、あるいはバイオマスエネルギーとしての森林の機能は貨幣価値に還元されにくかった。それをJ-VERに換えて市場に投入することで、新しい価値が創造できる。市場メカニズムを適正に運用して、森林の価値を経済的にも社会的にも明確にすることが重要だ。
J-VERや国内クレジットの売却を通じて山村が収入を得られれば、それが循環して地球温暖化の防止と環境保全、地域振興が同時に実現する。企業にとっては、このサイクルがCSRと削減目標への繰り入れの両面からメリットをもたらすことになる。