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ID : 15059
公開日 : 2010年 2月19日
タイトル
厳しい林業、進む過疎 環境の視点で山村活性化
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新聞名
毎日新聞
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元URL.
http://mainichi.jp/area/kochi/news/20100218ddlk39040638000c.html
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元urltop:
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写真:
 
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森はかつて財産だった。山の人々は「将来の子孫のため」と思い、一本ずつ手作業で苗を植えてきた。時代は流れ、今では山村から人が離れ、過疎・高齢化が進む。そして森の荒廃が進んでいる。森を巡る現状と、将来の可能性に目を向けてみたい。【服部陽】
 ●緑のダム●
 国土の7割を占める森林。このうち、杉やヒノキなどの人工林は4割に上る。戦後の復興期、木材需要による大量の伐採に伴い、国が大規模な造林を進めた結果だ。
 人工林には人の手入れが欠かせない。主な作業は、成長に応じて木を間引く「間伐」。林間が広がることで残る木の成長を促す。さらに、太陽光が差せば下草や落葉樹などが育つ。すると、落ち葉が作る腐葉土が雨水をため込み、わき水はじわじわと沢を下る。洪水や渇水を緩和するため、森は「緑のダム」と言われるのだ。
 ●荒れる山●
 しかし、昭和50年代以降は安い輸入材に押され、国産材の価格が低迷。木材が収入にならず、林業から人が離れ、山の荒廃を招いている。手入れされないと、林内は太陽光が届かずに薄暗く、木も成長しない。山村住民の生活用水になるわき水が枯れる、といった悪影響も出ている。
 そもそも、木の成長まで数十年という時間がかかる林業。価格が安くても成り立つよう、採算性が重視されるようになった。県内では20ヘクタール以下の小規模な山林所有者が約9割。こうした小さい山林を集約し、機械を入れた大規模な林業経営が主流だ。しかし、切っても木材を搬出するコストさえ賄えず、山林に残されたままとなるケースも多いという。
 「コンクリート社会から木の社会へ」を掲げる国は昨年12月、「森林・林業再生プラン」を策定した。木材の有効利用や安定供給を提唱。木材搬出などに使う作業道の整備を進め、現在約20%の木材自給率を10年間で50%以上にする、との目標を設定している。
 ●限界集落●
 森の荒廃と同調するように、山村の過疎・高齢化が進んでいる。最近では「限界集落」という言葉が一般的になってきた。大野晃・高知大名誉教授が提唱したもので「65歳以上の人口が50%を超え、冠婚葬祭などの共同生活の維持が困難な集落」と定義される。
 県が07年7月にまとめた調査によると、県内の集落のうち、消滅の可能性もある9世帯以下の集落は191カ所あり、全体(2360カ所)の8・1%に上る。さらに、高知市など都市部の8市町村に人口の75%が集中し、山村の人口減に歯止めがかからない。
 山村では水枯れに加え、バスなどの公共交通手段が限られ、日々の買い物や通院も不便だ。それでも、大豊町の岩崎憲郎町長は「水や空気を守る森の公益的機能を誰が守るのか。山に住む人の日常生活の営みがあってこそだ。この重要性を特に都会の人に分かってほしい」と訴えている。
 ●再生へ●
 最近、不景気による雇用情勢の悪化や地球温暖化への関心の高まりで、林業や山村が注目され始めた。今月6日に高知市内であった県林業労働力確保支援センター主催の就業相談会には、昨年の2倍近くの104人が参加した。県内でも山村、林業再生に向けた模索が続いている。
 森林ボランティア団体「NPO法人土佐の森・救援隊」(いの町)はサラリーマンや農家が本業を持ちながら、林業に携わる「副業型」を提唱し、昨年8月から養成塾を開いている。大規模型の林業経営とは違い、救援隊の中嶋健造事務局長は「山を良くするには、小規模でも自ら山を守る人が必要。副業なら参入しやすく、小規模林業は山村再生のツールになる」と説く。
 また、木材を燃料にした木質バイオマスが新たな可能性を切り開く。県は須崎市のセメント工場で事業を展開。発電ボイラーの燃料として、石炭などの化石燃料に代わり、チップ状にした間伐材を使い、二酸化炭素などの温室効果ガスを減らしている。
 こうした削減活動に投資することで、経済活動などで避けられない温室効果ガスの排出分を相殺する「カーボン・オフセット」が注目を集めている。県は4月以降、森林整備で生み出された温室効果ガスの吸収量を独自に認証し、証券化したクレジットを発行する。温室効果ガスを相殺したい民間企業などに売却し、得た資金で森林整備をさらに進める原資にする考えだ。県環境共生課は「木材価格の低迷や後継者不足で林業経営は厳しい。今度は環境という視点で林業の再興を目指し、山村の活性化につなげたい」と話している。