ID : 14018
公開日 : 2009年 11月17日
タイトル
南洋・北洋材 生態系配慮を付加価値に
.
新聞名
nikkei BPnet
.
元URL.
http://eco.nikkeibp.co.jp/article/special/20091111/102615/?P=1
.
元urltop:
.
写真:
複数の写真が掲載されていました
.
インドネシアには400種近い絶滅の恐れのある種がおり、熱帯雨林の伐採に伴う生態系への負荷は大きい。だが、木目のない南洋材は合板原料として最適で、代替が難しい。企業は生態系リスクに向き合い始めた。
グリーン購入法の改正で木材製品の調達に合法性の証明が求められ始めたのは2006年4月。「かつて違法に伐採された南洋材が大量に国内にも入っていたが、いまや合法証明書の要請が当たり前になり、違法材の国内流通は大幅に減った」と、環境NGO(非政府組織)、FoEジャパンの三柴淳一氏は評価する。
インドネシアの熱帯雨林から切り出された南洋材丸太 インドネシア政府は保護価値の高い森林区域を指定し、伐採を禁止する。合法証明書はそうした価値の高い森林を破壊していないことを示す。法規制により、違法伐採の撲滅という最低限の配慮は浸透してきた。
だが、環境先進企業は、さらに高いレベルの調達基準を掲げている。リコーは2004年に、APP(アジア・パルプ・アンド・ペーパー)社が製造したオフィス用紙の調達をやめた。APP社は、インドネシア産チップから紙を製造する。原木はインドネシア政府が認めた森林から伐採している。それでも、「天然の熱帯雨林を皆伐して単一樹種を植える手法は、生態系に配慮しているとは言えない」(三柴氏)との批判は根強い。
APP社は、こうした疑念に応えるため、今年から「オープンハウス」と称した施設見学会を始めた。大口顧客などを10社以上を招き、植林地や工場などを案内。環境配慮への取り組みを見てもらう試みだ。
オフィス用紙には、最も信頼性の高い森林認証であるFSC(森林管理協議会)を取得した木材を使った製品が普及し始めた。もともと日本の製紙会社大手は、パルプ原料をオーストラリアや南アフリカなどから調達し、既に東南アジアの熱帯雨林には依存していない。
企業がオフィス用紙を調達する際、合法性は当たり前で、高配合の再生紙か「FSC認証紙」に関心が移った。ただ、インドネシアでは、伐採を許可された森林区域にも価値のある天然林が多く、FSC認証を取得するのは容易でない。APP社のジレンマはそこにある。
ラワンなど南洋材使用を避けられない合板業界でも、生態系への配慮を巡り、同様の葛藤がある。大建工業は、国内産針葉樹を使った床用合板などを独自開発するなど、南洋材の使用削減に取り組んでいる。2004年度に約11万tだった使用量は、2007年度には約7万tまで減少した。それでも、見栄えや加工性の良い南洋材をすべて切り替えるのは難しい。
そこで、南洋材を使いながらFSC認証を取得しようとの動きも活発化してきた。既に1990年代前半から欧州や米国の建材販売大手は、南洋材合板に FSC認証を求めていた。インドネシアの森林管理・木材加工業界の中にも、これに応えるため、FSC認証の取得に成功する企業が出始めた。天然の熱帯雨林を商業的に伐採する場合でも、希少な樹種などを残して卓伐し、周辺の動植物への影響を最小にするなど管理して伐採すればFSC認証を取得できる。
認証合板で売り上げ4倍
一方、日本では工務店や建材卸などの企業規模が小さいこともあり、欧米に比べグリーン調達が遅れていた。それでも2005年以降、FSCのCoC認証を取得する企業が出てきた。CoC認証とは、認証品を分別管理できることを証明したもので、これがあればFSC認証品を加工・販売する際、FSCマークを付けられる。
輸入されたFSC認証合板は、損傷したものを抜き取り、ロットごとに認証マークを押す(トーヨーマテリア)
ホームセンターに出荷する前には、1枚ごとに認証マークの入ったシールを張る(ジューテック) 建材の輸入・販売を手掛けるトーヨーマテリア(東京都港区)は、2006年4月にFSCのCoC認証を取得した。「いずれどの企業も環境配慮が必要になる。ならば他社よりも早くFSC認証合板の販路を確保し、差別化商品に育てよう」。工藤恭輔社長はこう考え、FSC認証付き南洋材合板を扱う体制を整えた。
だが、認証を取得して3年間、FSC認証合板の受注はなかった。CoC認証の取得には100万円前後の費用がかかり、さらに毎年、監査費用として同程度の費用が要る。「来年以降、認証を更新するかどうか悩んでいた」(工藤社長)が、今年4月、ようやく商談がまとまった。住宅資材商社のジューテックが、ホームセンター大手にFSC認証合板を納入することになり、トーヨーマテリアを通じて輸入することになった。
ジューテックが納入したのは、「カーマ」「ホーマック」などを展開するDCMJapanホールディングス、そして「D2」を展開するケーヨーだ。2社合わせて4月から半年間で約2500m3を販売。これによりジューテックは、ホームセンター向け合板の販売量が4倍に急増する見込みだ。
ジューテックが販売しているFSC認証合板を製造しているインドネシアの合板メーカーの工場。生産ラインは、FSC材と非FSC材とを別々に管理し、混じることはない ジューテックの佐藤忠生・合板部課長は、「工務店向けの営業も強化しており、反応は上々」と言う。既に住友林業や積水ハウスなどがFSC認証合板を採用し始めた。今後、中小の工務店まで広がりそうだ。
FSC認証合板の仕入れ値は、一般合板に比べ数%高いため、ジューテックでは販売価格もその分高くしている。「環境という付加価値を認めてもらった顧客にだけ販売する。安売りはしない」と佐藤課長は言う。
現在、インドネシアの合板メーカーで、FSC認証品を作れるのは大手の数社しかない。希少価値もあり、「欧州や米国企業は、一般の南洋材合板よりも 20%以上高く買っている」(トーヨーマテリアの工藤社長)。今後、FSC認証合板の国内需要が高まれば、日本でも欧米並みの高付加価値商品になる可能性もある。
●インドネシア各地における違法伐採件数(2007年)出所:フォレスト・ウォッチ・インドネシア(インドネシアのNGO) FSC認証を取得する動きは、北洋材にも広がっている。北洋材とは、ロシア沿海州からシベリア一帯に広がるアカマツやエゾマツなどの針葉樹。タイガと呼ばれる亜寒帯独特の針葉樹林を形成し、希少種のアムールトラなどが生息する。 日本には1970年代から低価格を武器に北洋材の丸太が輸入され、国内で合板に加工している。 実は、ロシア政府は、保護価値の高い森林の伐採を禁止している。しかし、「森林を守るはずの営材所が、老木を伐採する『保育伐』の名目で、適齢な針葉樹を伐採して売り払い資金を得ている。こうした法的にグレーな北洋材が大量に流通している」と、FoEジャパンの佐々木勝教氏は指摘する。 そうした背景もあり、住友商事が45%を出資するロシアのチェルネイレス社は、FSC認証の取得に乗り出した。同社はグループ全体で260万haの伐採林区を持つ極東最大の森林管理・木材加工会社。2004年に約6割の林区で認証を取得、今年度中に残りの林区でも取得予定だ。住友商事が出資するロシアのチェルネイレス社グループの林区(左)と加工工場(右)。列状に伐採し、残した樹木から種が落ちて、自然更新されるため植林しない
農家に木を植えてもらう 「単に合法材というだけでなく、もう1歩踏み込んで環境配慮を表明したかった。針葉樹の天然林では初めてのFSC認証だったので、手探り状態から取得にこぎつけた」と住友商事の山北耕介・ロシア関連事業チームリーダーは振り返る。 今後、日本の販売先がCoC認証を取得すれば、FSC認証を取得した北洋材合板が登場する体制が整う。「大手ハウスメーカーのFSC認証合板への要望が強いことから、国内合板メーカーもFSC認証に対する関心は高い」(山北リーダー)という。 一方、認証制度の活用とは全く異なった発想で、商業植林と環境配慮、そして地域社会への貢献を実現したのが、双日による「ベトナム中部産業植林事業」だ。 1993年から始まったこの事業の仕組みはこうだ。まず双日とベトナムのパートナー企業5社がチップ加工会社、ビジャチップ社を設立。同社は、パートナー企業を通じて、周辺の農家に植林にかかる費用を融資し、植林用の苗を無償で提供する。苗木は早生樹種のアカシアで、農家は自分で空いている畑やあぜ道などに植樹。5~7年でチップ原木に成長すると農家が自分で伐採。市場価格でパートナー企業に売却し、収益から借入金を返済する―。 2005年までの実績は、提供した無償苗が約1080万本、植林面積は約1万3000ha(山手線内の約2倍)、買い取った原木は約244万t、出荷したチップは約119万tに達した。
一般的にこうした小規模に分散した植林事業は、採算が合わない。しかし、この事業で提供される植林管理や原木運搬の労力は、ほとんどが農家による自営で、賃金で支払われる人件費はほとんど発生しない。そのため、「農家もパートナー企業も、ビジャチップ社もすべてが収益を得ることに成功した」と、双日の木ノ下忠宏・林産植林部部長は言う。 生物多様性の視点から単一種を植えることへの批判はあるが、植林地は焼き畑などで荒れた樹木のない場所で周辺の天然林との混在はないという。「森林管理者が複数に分散しているため、FSC認証を取得できないが、環境・社会面で専門家からの評価は高い」(木ノ下部長)という。
双日がベトナムで取り組んでいるアカシアの植林事業。農家に無償で苗を供与し、成長した木を買い取り、同社の合弁企業がチップに加工し、日本に輸出する