ID : 13774
公開日 : 2009年 10月30日
タイトル
知っちゅう?09:副業型林家の育成を いの町のボランティア団体が養成塾
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新聞名
毎日新聞
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元URL.
http://mainichi.jp/area/kochi/news/20091029ddlk39040686000c.html
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元urltop:
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写真:
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荒れる山「自ら守る人必要」 中山間での暮らし維持へ 副業型林家の育成で森林・林業再生を--。いの町の森林ボランティア団体「NPO法人土佐の森・救援隊」が、本職を持ちながら山に携わる「副業型林家」の養成塾を開いている。林業は木材価格の低下で衰退。間伐が行き届かず、森は全国的に荒れている。再生の鍵は、森林組合などに頼らず、小規模でも自ら手入れする副業型林家の育成にあるという。山を訪ねた。【服部陽】
■セミプロ目指す
いの町の民有林。杉とヒノキが混ざった森で、チェーンソーの音が響く。切った木材は、木々の間に張られた約50メートルのワイヤにくくりつけ、ウインチで林道まで引っ張る。木材が宙を泳ぐような光景だ。救援隊が「軽架線」と呼ぶこのキット。木材搬出で高性能な大型機械を使えば数千万円が必要だが、約50万円で済む。さらに、最小2、3人でできる低投資型の作業だ。
木材は、直径が最も小さい部分で14センチ以上は建築材などになり、それ以下は木質バイオマス発電の燃料になる。「たくさん投資して大型機械を使わなくても、知恵を使えば林業はできるし、面白いんですよ」。救援隊の事務局長、中嶋健造さん(47)が胸を張った。
養成塾はそんな林業文化を伝えるため、8月下旬から始まり、約20人が集まった。チェーンソーを使っての伐採や架線の張り方などを学び、来年3月までの35日間程度で「セミプロ」を目指す。
ヘルメットが白の救援隊隊員の中に、目立つのは赤の塾生たち。自ら山を持つ公務員の男性(55)は「自己流だった機械の使い方などをマスターしたい」と受講。実家の山も放置されたままといい、「人の手が入ることで価値が出るはず。山を守っていきたい」と意気込む。不景気で今夏に無職になった男性(38)も「命がかかった緊張感ある仕事だが、社会に貢献できるのはやりがいがある」と話す。
■課題解決へ期待
昭和50年代以降、外材の輸入自由化で国産材の価格は低迷。林業は採算に合わなくなり、戦後復興で造成された人工林の多くは放置された。
そんな中、産業としての林業に重視されたのが、コスト削減などの効率化だ。県のデータ(05年)によると、県内の林家約2万5000戸のうち、所有面積が1~3ヘクタールの小規模林家が約半数。自ら管理できなくなった山主から森林組合などが受託し、細分化された土地を集約して行う大規模な林業経営が主流になった。県も雇用確保や山主への収益還元などを目指し、約100ヘクタール以上を「森の工場」に認定して集約化を推進している。
しかし、長年の放置で所有者の境界線が不明になるといった問題も起きており、そうした土地は集約化できず、整備の網から漏れ、放置されたまま。「森の工場だけでは林業の振興は難しい」(県林業環境政策課)という。
また、景気低迷に伴う失業者の雇用の受け皿として最近、林業が注目されているが、林業に就職を希望しても受け皿は森林組合ぐらいで、求人は限られる。さらに仕事を辞めて専業になるほど、林業での収入も期待できないのが現状だ。
こうした課題を解決する策として期待されるのが副業型林家の育成だ。「副業なら参入しやすく、低投資で済むので無理だと思ったら撤退も可能。農閑期のある農家や、土日のサラリーマンにポテンシャルがあり、価格が安いなりにも自ら山を守る人が必要なんです」と中嶋さんは説く。
■初の予算化
専業での大規模集約型と、小規模での副業型。県は森づくりの“両輪”として位置づけ、今年度初めて養成塾を補助事業として予算化(約230万円)した。副業型林家の養成に成功している救援隊に触発された格好で「やっと予算化できた」(同課)のが実情だ。
根幹にあるのは、全国に先行して過疎高齢化が進む中山間地域での暮らしの維持だ。農業や会社勤めの傍ら林業に携わり、収入を得る。県はイメージとして、月5、10万円でも林業収入があれば、山村に定着できる可能性があるとみる。
山に生きる人たちは、林業や農業などさまざまな仕事を持ち、地域を守ってきた。副業型林家の育成を通じ、山村の本来の姿を取り戻せるか。取り組みは緒に就いたばかりだ。