ID : 9959
公開日 : 2008年 12月21日
タイトル
シカ食害/根底にある林業不振
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新聞名
朝日新聞
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元URL.
http://mytown.asahi.com/nara/news.php?k_id=30000000812220002
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元urltop:
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写真:
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取材ノートから 年末回顧◎
吉野の大台ケ原や弥山(み・せん)の広葉樹林では、「ディアライン(ブラウジングライン)」が目につく。立ち上がったシカの口が届く範囲の木の葉が食べ尽くされ、横一線に見える現象だ。とにかくシカが増えすぎてい
る。下草が食べ尽くされ、皮をはがされた木が枯れる。森林は保水力を失って土砂崩れを起こし、下流の都市も災害の危険が増しているが、山奥のことだけに都会には伝わりにくい。
ある林業家が嘆く。「大企業から『社会貢献活動で植樹をしたい』という話が最近、よく来るが、本当は間伐に協力してほしい」。植樹してもすぐにシカに食べられ、結局、育たないからだ。
シカが増えた根底には、林業の不振がある。外国産木材の輸入が増え、国産材の価格が低迷し、山林に入る人が減った影響が大きい。専門家らは「国産材は外国材と比べて高くない。むしろ、住宅建設が『工業化』した
影響が大きい」と言う。柱や梁(はり)を工場で加工し、建築現場では組み立てるだけという方法だ。そのためには、小さな産地が分散する国内より、均質な材木を大量に輸入した方が手っ取り早いというわけだ。
先日、こんな話を聞いた。最近、兵庫県のあるホテルは団体客を大広間ではなく、小部屋に分けて食事させることにした。大広間だと、魚を同じ種類、大きさにそろえないと客から不満が出るので、大都市の市場から大
量に仕入れてきた。だが、「これでは地元の新鮮な魚を食べてもらえない」と考え直したという。
首都圏に行くと、郊外に広がる画一的な住宅群にため息が出る。一方、奈良は築100年以上の風格ある住宅が珍しくない。自然との調和を考えると、多様な木材の性質を読み取り、それを組み合わせて家を建てる「適
材適所」という「匠(たくみ)の技」を取り戻す時代が来ている気がする。