ID : 9421
公開日 : 2008年 11月19日
タイトル
森と人の懸け橋(稲本正)
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新聞名
日本経済新聞
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元URL.
http://eco.nikkei.co.jp/column/oakvillage/article.aspx?id=MMECc1000018112008
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元urltop:
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写真:
写真が掲載されていました
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「金融」という言葉は、「必要とするところに金銭を融通する」というのがそもそもの意味である。このことを例えば現代社会ではいかなる場合に当てはまるか、エネルギー問題に関して述べてみよう。具体的
には、以下のような事例が将来に向けて起こり得るのではないだろうか。
(1)落雷から電力を得るシステムを開発したが、その事業資金が不足しているので資金を融通して欲しい。
(2)淡水から水素と酸素を容易に分けて、かつ容易に移動するシステムを開発し、さらにその利用を誰もが簡単に出来るシステムを作り上げたが、その事業資金が不足している。
(3)海面波力の上下運動を回転運動に応用し、継続的に発電するシステムを開発したが、その事業資金が不足している。
(4)活火山の地熱を利用した温度差発電のシステムを開発したが、その事業資金が不足している。
(5)手入れが必要な人工林や二次林において、急斜面でも除間伐を行うロボットを開発し、集積した除間伐材からパルプやバイオマスエネルギーに活用するシステムを開発したが、その事業資金が不足している。
例えばこうした環境問題をも解決し得る事例にこそ、金銭を活用することが「金融」ではないだろうか。
しかしこうした事例に対し、金融支援の動きはまだまだ鈍いのが現状である。実現すれば社会的のみならず、地球環境にとっても有用な活用につながるはずなのに、現実の「金融」はサブプライムローンに代表される
ような「お金の増殖が見込まれるかもしれない」という実態経済と関係なく独走するマネーゲームに目が向いている。その結果、実態経済との良好かつ適正な関係が消滅し始め、金融に対する不安と不信が蔓延してしま
っている。
殊に金融関係者は、未来の環境に向けて整えておくべき産業・技術開発に深く関わることのできる位置にいるはずである。切迫したエネルギー問題/環境問題を乗り切るためには、もちろん金融関係者だけでなく、国
民一人ひとりもまた個人・家族・社会全体がより幸福な未来像が描けるよう、どこにお金が回るべきかに関心を持つことが重要ではないだろうか。
写真はイメージ
前回の私のコラムにおいて、「日本産アロマの抽出に成功した」ことをお伝えしたが、この報告に対し、研究者からはオークヴィレッジに「関心がある、協力したい」旨の連絡をいただいた。しかし残念ながら、金融関係
者およびその周辺からのアクセスは皆無であった。「日本産アロマの抽出」は、(1)木々の枝葉といった未利用材および廃材から抽出でき、(2)抽出した残りはバイオマス資源として活用することができ、更に(3)採取過
程で森林整備・森林保全につながることができる、事業としても「一石三鳥」な取り組みである。
もちろん、この「日本産アロマ」への投資だけが“有用なる金融”のすべてではないし、エネルギー問題だけでも最初に例を挙げたように沢山ある。従って、環境問題を含めて日本社会が再生していくためには、金融の
動きとしてもより高感度なアンテナを張り巡らし、未来を担う産業への関心とアプローチがもっと生まれてもらいたいと思う。
こうした関心やアプローチがあって初めて、日本の場合、「内需拡大」が進行する。国内に豊富にある資源やエネルギー(きれいな淡水、良質な木材、身近な波力、豊富な地熱、頻繁にある落雷・台風など)をうまく活用
し、食糧や木材、エネルギー自給率を高め、それに関わる産業の地位を高めることに金融が助力することがますます大きな意味を持ってくるのではないだろうか。