ID : 9386
公開日 : 2008年 11月17日
タイトル
新月伐採:林業再生に夢 北杜の畠中さん、根拠の追究続ける
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新聞名
毎日新聞
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元URL.
http://mainichi.jp/area/yamanashi/news/20081116ddlk19040077000c.html
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元urltop:
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写真:
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狂い少なく、虫害に強い…
冬の新月の直前1週間に切った木は腐らない--。林業の世界で「新月伐採」という耳慣れない言葉が注目を集めている。科学的メカニズムは解明されていないが、北杜市で住宅建築会社を経営する畠中実さん(53)
は効果を実感し、これまでに10棟の住宅を新月伐採した木材で建てた。輸入材に押されて衰退する林業の再生にもつながると期待する。
新月伐採した木は、通常の木材より強度があって狂いが少なく、カビや虫害にも強いといわれる。
畠中さんは01年に会社を設立した後、オーストリアで製材業を営むエルビン・トーマ氏の著書で新月伐採を知った。「すぐには信じられなかったけれど、ロマンを感じました」と畠中さんは言う。木の生命活動は月や太
陽の活動に大きく影響されており、そのリズムに合わせることが高品質につながるのではないか--畠中さんはそう推測している。
新月伐採は、冬に伐採した木を翌夏まで数カ月放置して自然乾燥させる「葉枯らし」と組み合わせることで効果を発揮するという。
通常の木材はボイラーで急速に乾燥させるため、木の細胞を破壊して強度を弱める。葉枯らしの場合は、木は光合成を続けながら徐々に乾燥し、木材を腐らせる腐朽菌(ふきゅうきん)の活性化を抑えるという。
新月伐採に強い興味を覚えた畠中さんは伐採業者を探した。しかし、業者は通常、伐採後すぐに丸太を山から出して換金する。切った木を半年近く現場に放置する葉枯らしをしてくれる業者は山梨県にはいなかった。
02年、やっとのことで応じてくれた静岡県の業者も「正気のさたじゃない。水分を含ませたまま放置したら木がだめになる」と、半信半疑だったという。
しかし、翌夏になっても木は少しも腐っていなかった。
以来、畠中さんはこの業者に新月伐採を続けてもらい、受注したログハウスなど10棟に使って強度などのデータ収集をしている。
畠中さんは林業関係者らが結成したNPO「新月の木国際協会」(増田正雄会長、千葉県)にも参加し、科学的根拠の追究を続けている。「新月伐採した木材はボイラーを使わず、長持ちするので、地球温暖化や乱伐の
防止につながる。日本の林業が息を吹き返すきっかけになれば」と畠中さんは話す。
◇温暖化防止にも
輸入自由化の結果、安い輸入材に押されて日本の林業は衰退した。
しかし、近年では中国などでの需要の高まりで輸入材が高騰、国産材との価格差はほとんどなくなった。にもかかわらず、07年度の森林・林業白書によると、日本は約8割を依然として輸入材に依存している。
木材が「どこから来たのか」を数値化する運動を続ける「ウッドマイルズ研究会」(事務局・岐阜県美濃市、藤本昌也会長)によると、日本は輸入材の約6割を1000~8000キロ、約4割を8000キロ以上離れた海外か
ら輸入している。木材の輸送量に距離を掛けた「ウッドマイレージ」は世界トップクラスとなっており、輸送に伴って大量の二酸化炭素を排出していることになる。
同研究会の試算では、延べ床面積125平方メートルの住宅を国産材で建てると、北欧からの輸入材を使った場合に比べ、二酸化炭素排出量を約6288キロ抑制できる。これはガソリン約2734リットルを燃やすのに匹
敵する量という。【沢田勇】
毎日新聞 2008年11月16日 地方版