ID : 8107
公開日 : 2008年 7月 3日
タイトル
途上国 救え 環境問題、テロ対策、民主化
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新聞名
中日新聞
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元URL.
http://www.chunichi.co.jp/article/world/newworld/CK2008070202000236.html
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元urltop:
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写真:
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日本は厳しい財政事情に制約され、途上国向け援助予算を減らし続けていますが、欧州各国は、地球規模の環境対策などで役割を果たすため、民間団体とも力を合わせて援助に積極的に取り組んでいます。
米国も、テロ対策や民主化を目標に据え、援助に力を入れています。
英国 政府とNGO緊密に協力
英国は、一九九七年に労働党が政権を奪取して以来、政府開発援助(ODA)を急増させてきた。二〇〇六年時点の額は六十七億七千万ポンド(約一兆四千億円)で日本を抜き、この年は世界二位の援助国となった。
労働党は政権を担うと、政策立案から実施まで一貫して担う国際開発省(DFID)を設置。保守党政権下で0・3%ほどだったODAの対国民総所得(GNI)比は、〇六年に0・51%に上昇。一三年に0・7%まで高める方針
だ。
特徴の一つは、相手国の予算への直接資金提供を重視していることだ。財政運営の向上こそが、長期的な問題解決に資するとの判断からだ。ただ、アフリカなどには、そもそも国家としての行政能力が欠如している国
が多い。そこで重要な役割を果たすのが非政府組織(NGO)。DFIDは、〇六年には二百以上の団体に二億七千四百万ポンド(約五十八億円)を提供した。
元DFID局長で、国際的な医療支援を行うNGOマーリンのキャロリン・ミラー事務総長は「NGOは脆弱(ぜいじゃく)な国家で重要な役割を果たせる。英政府とNGOは緊密に協力し合っており、NGOが蓄積した専門的
知識が、DFIDの政策決定に寄与することもある」と指摘している。 (ロンドン・星浩)
フランス 対アフリカ中心、質の変化も
「援助額が少なくなっているのはフランスだけの問題ではないが、特に減少が目立つ。今までは先頭に立っていたのに」。途上国支援のNGO「Oxfam」仏支部広報、フルミ氏(31)はそう嘆く。
仏政府はシラク前政権時代に「ODAを二〇一二年までに国内総生産(GDP)の0・7%に」との目標を掲げたが、今年の援助額は財政悪化の中で八年ぶりに削減され、昨年の0・47%から0・39%に落ち込んだ。フルミ
氏は「七月からの欧州連合(EU)議長国として“引いた”立場では悪い影響を与える」と心配する。
フランスは伝統的に影響力を持つ旧植民地のアフリカを中心に、教育や保健衛生の分野に力を入れてきた。蚊帳で乳幼児の死亡率を下げるなど、成功例も。仏開発局は「昨年は飲料水確保や温暖化ガス削減など、環
境面も重視した」と説明する。
一方、ODAの使途や効果を監視するNGOは最近の「質の変化」を懸念。同支部によると、二〇〇〇年ごろから援助目的が移民問題などフランスの国益につながる投資に向き始めたという。
フルミ氏は「フランスのODAは海外県や国内移民向けに使われるなど“幽霊援助”が多い。途上国政府を通さない援助も多いが、相手政府をもっと信用して人材を育てなければ持続的発展につながらない」と指摘する
。(パリ・牧真一郎)
ドイツ 産業振興から温暖化防止へ
日本がODAへの拠出を減らす中で、二〇〇七年に米国に次ぐ世界第二位のODA大国となったドイツ。これまでは途上国の産業振興が中心だったが、環境に軸足を移している。
独開発省によると、〇七年にドイツが拠出したODA予算約百二十億ドル(約一兆三千億円)のうち、三分の一が環境関連。近年、地球温暖化対策として二酸化炭素(CO2)など温室効果ガス排出削減のための取り組み
が増えてきている。
ブラジルに対しては、一九九三年に始まった熱帯雨林の保護事業で計三億ユーロ(約五百億円)を拠出。ブラジル政府や企業との共同で、焼き畑や違法伐採に代わる地域経済モデルづくりを支援する。ただ森を保護す
るだけではなく、住民にとっても持続可能な開発を目指す。
中国では、貴重な生物の集まる海南島の熱帯雨林の保護に参画。アフリカ中部のコンゴ民主共和国でも同様の事業を展開中だ。
ドイツでは一九七〇年代ごろから同国南部に広がるシュワルツワルト(黒い森)で酸性雨による立ち枯れの被害が深刻となり、国民に衝撃を与えた。それだけに、特に森林保護には関心が強い。
さらに、ドイツは今年五月、温室効果ガスの排出量取引から上がる利益を原資に、毎年五億ユーロを森林保護に拠出する計画も発表。温暖化対策を途上国支援の中軸に据える姿勢を明確にしている。
独開発省は「貧困国での環境対策は経済発展が伴わなくては成功しない。ここをどう結ぶかが知恵の出しどころだ」と話している。 (ベルリン・三浦耕喜)
米国 積極推進、同時テロが転換点
世界一の援助国、米国のODAは、安全保障政策と一体化している。米国際開発庁(USAID)が中心になり、国務省の指導のもと途上国の経済成長や紛争予防を推進。民主主義を世界に広げる「外交政策の目的を促進
する」理念を掲げて活動している。
一九九〇年代に減少傾向にあったODAの転換点は、二〇〇一年九月に起きた米中枢同時テロ。途上国の根強い貧困や混乱がテロにつながったとの考え方が米国内で広がり、ODAが見直された。
〇二年三月、ブッシュ大統領は新たなODA政策について演説。途上国の「貧困や弾圧が国民の絶望を招いている。開発は希望や繁栄、安心をもたらす」と述べ、〇四年度から三年間でODAを50%増やすと表明した。
米国務省によると、〇一年に百十四億ドルだったODAの規模は、〇五年に二百七十五億ドルに急増した。
イラクでは、〇三年から生活復興を支援しインフラを再建。民主主義が根付くよう、勉強道具の配布など子どもたちの教育再開も後押ししている。アフガニスタンでは元兵士の自立のためコンピューター教育を実施。
経済再建のため女性のビジネス参加の必要性も重視し、女性によるビジネスの立ち上げ支援事業を〇五年九月から始めた。