ID : 7508
公開日 : 2008年 5月 6日
タイトル
おばけクヌギを守ろう 山梨・北杜で台木のオーナー制度
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新聞名
MSN産経ニュース
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元URL.
http://sankei.jp.msn.com/region/chubu/yamanashi/080506/ymn0805060247002-n1.htm
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写真:
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樹液が豊富に出ることから、国蝶のオオムラサキや「黒いダイヤ」と呼ばれるオオクワガタなどさまざまな昆虫が集まるクヌギの台木(だいぎ)。幹が握りこぶしのような独特の形をしていることから「おばけ
クヌギ」とも呼ばれ、里山の象徴的な存在だ。これを守ろうと、自然とオオムラサキに親しむ会(山梨県北杜市)や自然ジャーナリストらが発起人となり、山梨県北杜市でクヌギの台木のオーナー制度を始めた。(油原聡子
)
自然とオオムラサキに親しむ会などによると、クヌギの台木作りはかつて国内各地で行われていたという。クヌギの幹を高さ2メートルほどで伐採すると切り口から新しい枝が大量に生えてくる。柔らかなこの枝は腐り
やすく肥料に適していたため、刈り取って水田に敷き詰める「刈敷」のほか、炭や薪にも利用されていた。枝を刈り取ると樹液が豊富に出るため、オオムラサキやオオクワガタなどさまざまな昆虫も集まり、「昆虫のレスト
ラン」として生態系維持にも一役買っていたという。
しかし近年、農林業の就業人口の減少と高齢化に伴い、放置された雑木林が増加。手入れがされないため、枝の重さに耐えかねて折れてしまう台木も出てきたという。加えて、北杜市が国内屈指のオオクワガタの産地
だったことも災いした。悪質な昆虫販売業者が台木の皮をはいだり伐採したりするため、枯死するケースが相次いでいるのだ。
オーナー制度の発起人の1人で、「米が育てたオオクワガタ」など雑木林に関する著作もある自然ジャーナリスト、山口進さん(60)は「昔は北杜市内のクヌギの台木にはオオクワガタがたくさんいた。今では2、3年に1
匹しか見ない」と嘆く。台木の幹は雨が降ると腐って穴が開きやすく、そうしてできた洞にオオクワガタが住んでいた。山口さんは「オオクワガタがいなくなったのは、おばけクヌギがなくなったからだ」と断言する。
台木のオーナー制度では、1口5000円で募金を集め、伐採防止をかねて台木にオーナーの名前を記したプレートをかける。2口以上寄付すると、毎年薪やシイタケのほだ木を贈る予定だ。3月下旬から呼びかけを始
めたところ、県内外40人から応募があった。
目的は台木の保全だけではない。所有者の同意を得て、台木のある雑木林全体を管理、市内で放置された雑木林10ヘクタールをよみがえらせるのが目標だ。北杜市ではかつて、雑木林が残っているのにオオムラサ
キが減ったことがあった。同会の跡部治賢会長(58)は「ただ保全するだけではなく、人の手で管理して環境を整えないといけなかったんです。台木のある里山は日本の原風景。今、手を打たないと生態系に影響が出る
」と訴える。
◇
4月20日、自然とオオムラサキに親しむ会の呼びかけで北杜市の雑木林には、オーナー制度に賛同した人たちが県内外から集まった。荒れた果てた雑木林は地面を覆うようにアズマネザサが生え、クヌギの台木や倒
木、枯れ落ちた枝が放置されたままだ。参加者は鎌を手にササを刈り取り、下草を払っていく。
作業を始めて1時間ほどたったころ、三重県の会社員、河合実明さん(41)は長男の教朗ちゃん(6)と一緒にはしごを使って、20年は放置されているクヌギの台木に登った。教朗ちゃんの名前が記されたプレートをそ
っと枝にかける。プレートには「台木保存告知板」の文字。実明さんは「子どもの代にクヌギ林を残したくて」とほほえむ。長い間放置されてきた暗い林が、陽光の差し込む明るい雑木林に生まれ変わる第1歩だ。
オーナー制度の問い合わせは、跡部さん(電)090・9975・2595まで。