ID : 500
公開日 : 2006年 3月10日
タイトル
今ここにある未来 人口減少社会を生きる
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新聞名
日本海新聞
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元URL.
http://www.nnn.co.jp/tokusyu/mirai/060308.html
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元urltop:
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写真:
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「木材価格の低迷で、林業に携わる人がここ十年、特に少なくなった。山も荒れている。特に最近は、風倒木や雪害が痛手となって、林業の先が見えなくなっている」
鳥取県日南町新屋の林業、出口只雄さん(70)はぼやく。約三十ヘクタールの山林を所有し、父が炭焼きをしていたので、子どものころから親の姿を見ながら育ち、跡を継いだ。近くの林業会社で働いている。かつて社員
は七人いたが、今では出口さんと経営者の二人。二人で杉の間伐やシイタケの原木作りに汗を流す。
低迷する材価
後継者が育っていないのが問題としながらも「今の材の値段だと、山から材を搬出するのに採算が取れない。作業時の保険をかけていない人も多く、若い人に危険で補償がない職に就けとは言えない」とつぶやく。
日南町は町面積の九割以上にあたる約三万ヘクタールが山林で、林業は町の主要産業の一つ。近年は安い外材の流入による材価低迷などで、山に手が入らなくなり荒廃が進んでいる。山から材が出なくなると外材へ
の依存度が高まり、さらに地元の材が売れなくなる悪循環が生じ、山の水源涵養(かんよう)機能の低下も危ぶまれている。
こうした状況を打破しようと、町は荒廃する山林と地域産業を国の支援を受けながら再生を図る地域再生計画「地球環境にやさしい新森林業の形成」を提出し、昨年採択された。
「新森林業」は、森林の公的機能保全などを進める「地域資源関連主要事業」と、森林の保育から伐採、加工までの産業体制を強化する「経済関連主要事業」からなる。
この計画に林業関係者は注目した。町内で伐採して木材市場に集まる木材の一割しか加工されず、ほとんどが町外にそのまま運ばれるため、付加価値が生まれず、もうからないのが現状だからだ。
技術も金も
今年一月、日南町森林組合(入沢宏組合長)が中心となり林業や木材関係者ら数人が新会社「オロチ」を立ち上げた。
社長に就いた森英樹さん(50)は、昨年十月まで林野庁経営企画課の総合調整企画官で、一九八六年から三年間、同町に出向し農林課長を務めていた。
日ごろ「過疎の山林問題を霞ケ関は分かっていない」と感じていた折、森林組合や町から協力を求められた。「山持ちで(林業で)生活できるような基盤をつくってみたい」と賛同した。
新工場で製造するのは、柱やはりなどに利用する高精度高強度の構造材。丸太をいわゆる大根のかつらむき状態にスライスして、繊維方向を合わせ何重にも重ねて柱や板を作る。これまで、捨てられていたゆがみの
ある材も使うことができ、今以上の材の搬出も期待できる。杉材でこの構造材に挑戦するのは国内で初めてという。
同社は、新木材市場に予定されている町の残土処分場(同町下石見、七ヘクタール)内で、二〇〇七年度中の操業を目指している。製品の乾燥には、木皮や木片などを燃料にする木質バイオマス利用を試み、年間二
万立方メートルの生産と十数人の新規雇用を見込んでいる。
森社長は「材の価値を高めないと、地域に技術も金も残らない。森林を健全に保つためにも、搬出した木を常に定量加工できる工場が必要」と強調する。
入沢組合長は「町内の木は、伐採の時期を迎えている。この時期に切れないと、新しい木を植えることができず林業の持続性がなくなり、将来、資源の供給もできなくなる可能性がある」と指摘し、新工場の役割に期待
している。