ID : 4978
公開日 : 2007年 10月12日
タイトル
少数民族村の祭りと世界観(V) 雲南の民族と森林
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新聞名
JanJan
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元URL.
http://www.news.janjan.jp/culture/0710/0710100688/1.php
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元urltop:
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写真:
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ラフ族はこの地に居住し、この芭蕉林に感謝を込めて神林として祀ることにした。毎年1回、農暦正月の最初の龍日に、近隣のラフ族村と一緒に芭蕉樹の前で祭りを行っている。村人は芭蕉林を囲む柵を修
理しながら、柵内の雑草を刈り取り、蜜蝋の蝋燭を芭蕉林の四方に置いて火を灯す。祭司は呪文を唱えながら柵の周囲に紐をめぐらせ、その間、祭りの参加者は柵の外側で跪き礼拝する。祭司の呪文は、村の平安を願う
内容であり、この祈祷が終わると祭りも終了する。この後、祭司以外の村人は芭蕉林に入ることが許されず、また各村には芭蕉林での狩猟や放牧を禁止する規則がある。
写真4. 双江県布京ワ族村の神樹
双江県沙河郷布京ワ族村では、山神を祀った山の麓にあるガジュマロの大木を村の守護神カオムイとして祀っていた。老人の話しでは、文革末期に下放してきた青年たちが、この神樹を伐採したので、村の老人たち
は相談して、他所にあるガジュマルの幼木(写真4)を新たな村の守護神とし、夜間密やかに、祭祀活動を許された老人ダグロによって祭りが行われてきた。
これらの村でも集落の出入り口や集落の周囲に縄をめぐらせて結界を張り、村を封鎖して人々の出入りを禁止している。
写真5. 騰冲県沙家ハ(「つちへん」に「霸」)リス族村の土神廟
保山地区騰冲県猴橋鎮沙家ハ(「つちへん」に「霸」)リス族村では、村の守護神を土神ミーナイニエと呼び、集落後方の山腹にある土神廟で祀っている(写真5)。村人は各々、農暦の正月元旦にモチ米を焼いた餅と肉・
酒を廟内の祭壇に供え、線香を焚き、紙銭を燃やして、村の平安や人と家畜の健康を願って跪いて祈祷する。この儀式が終わると、村人は集まって一緒に饗宴して新年を祝う。
騰冲県荷花郷汪家寨ワ族村は、泰山石敢当や障壁・紙馬・小公座などの漢族と共通する習俗が見られる村である。その一方で、少数民族の伝統的な自然信仰である巨木を村の守護神として祀っている。集落の西側に
ある神樹林のガジュマロの巨木を大神樹(写真6)と呼び、毎年2回、農暦2月と6月の最初の丑日に祭りを行っている。本村では、祭りを主催する5軒の家が決まっており、順番で祭りの一切を請け負っている。
写真6. 騰冲県汪家寨ワ族村の大神樹と神廟
その年の祭りを請け負った家では、鶏・茶・酒・爆竹・紙銭・線香などの供物を用意し、祭りの前日の日没前までに銅鑼を鳴らし、祭りを行う旨を村人に通告する。祭日の早朝、村の青年は、大神樹の前で竹を編んで作っ
た祭具ジーチャイに鶏の血を数滴垂らし、村の出入り口の路傍や大神樹の周囲にジーチャイ(写真7)を立て、結界を張って村や神聖な場所への村人以外の人の出入りを禁止する。
儀式は先ず鶏を洗い、刀で内臓を取り出してから煮る。内臓を煮た鶏の中に戻し、大皿に鶏と刀を乗せ、酒・茶・山盛りの飯を大神樹の下にある神廟内の祭壇に供える。線香を焚き、紙銭を燃やし、爆竹を鳴らしながら
、祭りの主催者たちは、村が平安であり、家畜の旺盛に育ち、村人が無病息災であるように祈祷する。この後、供えた鶏を細かく切り分け、その一部を椀に盛り、酒と茶を数滴地面に垂らして、再び鶏を祭壇に供え、礼拝
してから神廟を退出する。残りの鶏は、祭りの参加者に均等に配り、それを家に持ち帰って各家の祭壇に供える。正午までに祭りは終了し、その後、祭りの参加者は全員で食事をする。食後、村人全員で水田に行き、水田
の傍らに祀っている田神に対して五穀豊穣を祈願している。
今回、紹介した各村で暮らす村人たちは、龍林や神林内の全てのものを村の守護神が所有し、管理していると信じている。そのため、龍林や神林内の樹木を伐採することを厳重に禁止している。例えば、曼来ハニ族
村や吉良ブーラン族村などでは、祭司や限られた老人たちだけが龍林や神林に入ることを許されている。汪家寨ワ族村では、神林内の樹木の枝を折ることや、落ちている枯れ枝を持ち帰ると、悪鬼が家に入り込み、原
因不明の怪我や病気にかかると信じられ、樹木を傷つけることさえも禁じている。私が曼来タイ族村を訪れた時にも、地方神を祀っている水源林まで案内を頼んだところ、村人から「広龍林には行かない方がいい」と嗜
まれたことがあった。
これらの村は、1950年代の大躍進、さらに1970年代の文化大革命を経て、村周辺の森林は大規模な破壊を受けてきた。その後も、改革開放政策によって、森林の樹木は商品として伐採し続けられてきた。そのこと
が原因となって、1990年代の農村では、周辺の山林で土砂崩れが頻繁に起こり、また水源の水が涸れるなどの被害を受けている。
現在、村人の多くは、万物に霊が宿り、神霊が人々に幸福をもたらしたり、悪鬼が禍を及ぼしたりすることはないと認識している。しかし、その一方で森林を含めて自然環境を破壊することが、自らの生活を脅かすことも
、長年に渡る自然と共生してきた経験から学んでいる。1980年代後半以降、中国政府は森林保護を目的に「退耕還林」政策を実施しているが、ゴム樹や茶樹の植林も森林を回復するための事業であるとしている。私
は雲南省を訪れるたびに、広大な原生林の姿が消えつつあるように感じている。
参考文献:
・楊兆麟著 『原始物象―村寨的守護和祈愿』 辺地文化叢書 雲南教育出版社 2000年11月
・李克忠著 『寨神―哈尼族文化実証研究』 雲南民族出版社 1998年3月
・李維宝 李海櫻著 『雲南少数民族天文暦法研究』 雲南科技出版社 2000年9月
・為則著 『哈尼族自然宗教形態研究』 雲南民族出版社 1995年8月
・黄澤著 『西南民族節日文化』 西南研究書系 雲南教育出版社 1995年3月
・劉芝鳳著 『尋訪原始部落』 雲南人民出版社 2001年6月